行列してでも食べたい絶品つけ麺! ラーメン官僚が絶賛する秋葉原『ほたて日和』がスゴいワケ

ほたての繊細な旨みを最大限に活かした独創性が光る究極の一杯!

「帆立の昆布水つけ麺白(塩)」1100円
「帆立の昆布水つけ麺白(塩)」1100円

 眼前に供された「昆布水つけ麺」のビジュアルは、惚れ惚れするほど美しく、口を付ける前から「間違いなく美味い!」と、確信を抱くことができるもの。

 十分な粘度のある昆布水を絶妙な塩梅でまとった麺は、艶めかしく輝き、視界に入った瞬間、たちどころに食べ手の視線が釘付けに。スープから立ち上る帆立の芳香も、鼻腔を心地良くくすぐります。麺が盛り付けられた丼と、スープが湛えられた丼に加え、トリュフオイル、鰹塩、山葵、帆立のカルパッチョを盛り付けた小鉢等が品良く鎮座する圧巻の構成です。

「これら4つの品は、昆布との相性が良さそうな食材を数十種類用意した上で、その中からベスト・オブ・ベストをチョイスしたものです。個人的な好みもありますが」。

 丼や皿からそこはかとなく漂う高級感も相まって、佇まいは、まるで和食のコース料理のよう。視覚的にも存分に楽しめる1杯に仕上がっています。

麺を浸している昆布水
麺を浸している昆布水

 食べ方のマニュアルに沿って、日本を代表する産地・猿払村の帆立カルパッチョを頬張り、口腔内を帆立の風味で溢れ返らせてから、お箸で麺をひとつかみ。ズズっと啜り上げます。麺にピタリとまとわり付く昆布(羅臼昆布&がごめ昆布)とイワシ煮干のうま味成分が、ダイレクトに味蕾へと注がれ、身体中に快楽という名の衝撃が走ります。

「ここ数年で昆布水つけ麺の認知度が飛躍的に上昇し、提供する店舗も増えました。ラーメンシーンを俯瞰すれば、今は、鰹昆布水を用いたつけ麺が主流ですが、イノシン酸とグルタミン酸のバランスにもう少し工夫を凝らせば、より美味しくなるのではないかと考え、鰹の代わりに、グルタミン酸が増強できるイワシ煮干を昆布水に合わせてみた次第です」。

 鰹と合わせると過度になりがちな塩味が、煮干しと合わせることで穏やかになり、うま味成分を十二分に引き立てるベクトルへと作用する。特筆に値するギミックです。

「この1杯を手掛けるに当たって目標に据えたのは、ひと口目の感動を食べ終わりまで持続させることでした。この目標をクリアするためには、食べ手の味蕾が味に慣れる状態を防ぎ切ることが求められます。また、昆布水は、一度麺をスープに浸してしまうと、スープのうま味にマスキングされ、それ以降は物足りなく感じてしまいがち。そうならないように、昆布の濃度を上げています。濃度があれば、昆布のうま味が麺に絡みやすくなりますしね」。確かに、この昆布水。それだけでごくごくと飲み干せてしまうほど、豊潤かつ深遠な味わいです。

(左)スープ素材の軸となる帆立。(右)透明度の高いスープだがしっかりと帆立の味が凝縮されている
(左)スープ素材の軸となる帆立。(右)透明度の高いスープだがしっかりと帆立の味が凝縮されている

 この麺と合わせるスープもまた、絶品中の絶品です。

「スープについては、帆立の風味強化に走らず、他の素材で帆立の風味を引き立たせることを注力しました」。

 確かに、ひと口啜れば、複数のうま味成分が食べ手の味蕾に与える効果に意を配り、必要最小限の素材(信玄鶏、イワシ煮干)のみを用い、素材本来の持ち味を損なわないよう、細心の注意を払いながら炊き上げていることが分かります。

「余計な素材を加えない『引き算』の発想でスープを作ることにもこだわりました。昆布のうま味(グルタミン酸)、帆立のうま味(コハク酸)と、鶏のうま味(イノシン酸)とを上手くバランスさせることに意識を集中させ、可能な限り丁寧に鶏からイノシン酸を抽出することを心掛けました。具体的には、ガラをしっかり掃除したり、湯引きで余分な脂や臭いを除去したり、ネギの頭を入れて臭いを取り除くといった工程を忠実に実践していますが、こういう基本的な調理法を着実に実践することって大切ですね、今、まざまざと実感しています」。

口内で帆立の味が爆発するそんな表現がしっくりくるほどに味が濃密なスープ
口内で帆立の味が爆発するそんな表現がしっくりくるほどに味が濃密なスープ

 一見シンプルなように見えながら、幾種類ものうま味成分が舌上で混然一体と化し、食べ手の胃袋を確実に鷲づかみにする。ラーメン作りに対する店主の真摯な姿勢が具現化されたかのような、会心の出来映えです。

つけ麺に合わせる麺として最適解を追求し作り上げられた麺
つけ麺に合わせる麺として最適解を追求し作り上げられた麺

 麺も、『三河屋製麺』と共に、幾度となく試行錯誤を重ねて創り上げたものです。

「『春よ恋』を100%用いた麺ですが、それだけではありません。ひとつの産地でなく、複数の産地から『春よ恋』を取り寄せ、それらをブレンドすることで、風味、舌触り、喉越し、スープの持ち上げのすべてにおいて、満足度の高いものに仕上がりました」。

 昆布水の風味との相性が抜群で、小鉢の薬味とも阿吽の呼吸を奏でる、まさに「この1杯にしてこの麺あり」と言うべき逸品。夢中になって様々な食べ方を試しているうちに、いつの間にか、丼が空っぽになってしまっていました。

「これからも努力と研鑽を重ね、もっと上質な味を提供できるお店になれば」と、意気込みを語る及川店主。

 日ごとに人気が右肩上がりに高まる『ほたて日和』。今や、押しも押されもせぬ大行列店となり、1杯にありつくまでに相応の時間はかかるかも知れませんが、それでも訪問する価値は十二分にあります。未食の方はぜひ一度足を運んでいただきたいと思います。

及川淳一店主のプロフィール

・オーセンティックバーにてバーテンダーとして13年間勤務した後、2009年、神保町の地に『麺屋33』を創業。
・創業当時は共同経営者がおり、共同経営者が商品開発、及川氏は経営・サービスを分担して担当していたため、同氏が職人としてラーメン作りに取り組むようになったのは、共同経営者が『麺屋33』の営業から手を引いた2017年以降のこと。
・及川氏曰く「料理人としての経験が不足していた」ため、2017年以降しばらくの間は、現行の味を維持するのに精一杯だったが、2020年6月より、満を持して本格的な商品のブラッシュアップを開始。
・試行錯誤の結果、以前から賄いとして試作を重ねていた「昆布水つけ麺」が納得できる水準にまで到達したことから、今般、『麺屋33』の姉妹店として、つけ麺をフラッグシップメニューとする『ほたて日和』を、秋葉原の地で開業。

●SHOP INFO

Tokyo Style Noodleほたて日和外観

店名:Tokyo Style Noodleほたて日和

住:
TEL:03-3863-3773
営:11:30~15:00、17:30~20:30、
  土・日・祝11:30~15:00(※現在は記帳制を導入。2023年2月時点現在)
休:水曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。