
セロリ&タマネギに牛脂&山椒。異素材を組み合わせ、唯一無二の味を構築!
北区・王子の庶民的な街並みの中、ひと際その存在を主張する『お好み焼ゆめや』の看板。だが、その看板の下、現在店舗を営んでいるのはお好み焼き屋『ゆめや』ではない。『麺屋坂本01』という、屋号さえ全く異なるラーメン店だ。
「この『ゆめや』さんの看板。拝見した瞬間、地元の方々が愛着を抱いてきたんだろうなと思って。そう考えると、取り外すことができなかったんです」
そう語る坂本店主はアパレル業界のご出身。ラーメン好きが高じ、転職を決意。自らが創りたいラーメンの理想像を思い浮かべながら、理想を現実のものとすべく研鑽を重ね、本年4月18日、同店を開業した。
味はもちろん価格も、地元の方々の懐に優しいものにしたい。提供するラーメンの内容を決めていく際、味の向上に尽力する店主は多いが、検討の過程でコストパフォーマンスの高さを織り込める者は珍しい。看板の件といい、徹底した地元志向。ブレない店主の姿勢から、大樹の幹のように確固たる信念が伝わってくる。
「ワンコイン(500円)で実現可能な味の最高峰を目指しました」と笑う店主。価格に天井があるのなら、頭を使って創意工夫を凝らすことで、その壁を打破すれば良い。このような考え方を貫き通した結果、ワンコインなのに1000円ラーメンのような気品が漂う、規格外の「中華そば」が完成。
スープは、鶏・豚の骨と肉をじっくりと炊き込んだ出汁に、セロリ・タマネギなどの香味野菜を溶け込ませたもの。仕上げに、上品な甘みが印象的な「牛脂」をスープ表面に泳がせ、鶏・豚・牛の三大動物系素材をそろい踏みさせることで、桁違いに分厚い香りとうま味を演出。
そのスープに、ピリ辛の「山椒」(※)をデフォルトで投入する発想力も賞賛に値する。食べ進めるにつれて、薫り高い山椒がスープに馴染み、香味野菜や牛脂と一体化。これまで体験したことのない唯一無二の味が組み上がっていくサマには、爽快感すら覚える。
ハイレベルなのはスープだけではない。圧倒的な麺線の美しさを誇るストレート麺の出来映えも新店離れしている。扱いが難しい平ザルを駆使して、麺茹でから湯切りまでの作業を完遂。卓上に提供された「中華そば」の麺のたたずまいは、思わず息をのむほど魅惑的だ。
(撮影◎松山勇樹)

・・・・・・・
(※)現状、山椒は、その一種である「中国山椒(花椒)」を、辛み(特に舌先に痺れ感をもたらす「痺」の辛み)を付与するための素材として担々麺に使用する場合が殆ど。担々麺以外のラーメンに用いられることは、滅多にない。山椒は香りが極めて強く、少量を用いるだけでスープの味わいが激変してしまうおそれがあるからだ。
・・・・・・・
●SHOP INFO

店名:麺屋 坂本01
住:東京都北区王子3-8-6
TEL:非公開
営:11:00~14:30、土・日11:00~15:00
休:月
看板は「お好み焼 ゆめや」だが、店に近づくと小さく「坂本01」と表札がかかっている
●著者プロフィール
田中一明
フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。