綾瀬『陽はまたのぼる』は、煮干しラーメンの最高峰だ|田中一明のラーメン官僚主義!

ラーメン官僚主義!【第14回】陽はまたのぼる【綾瀬】

煮干しそば(750円) | 食楽web

下町に忽然と行列が出現。煮干しの名匠『麺処晴』仕込みの手腕は本物!

 ロケーションはJR常磐線綾瀬駅から500m弱。駅から続く人の流れが途切れ始め、代わりに穏やかな空気が辺りを包み始める。下町ならではのそんな牧歌的な空間に身を委ねながら更に歩みを進めると、忽然と長蛇の列が姿を現す。その行列の主こそが、今回ご紹介する『陽はまたのぼる』だ。

 同店の店主・大川氏は、煮干中華そばを作らせたら都内でも指折りの実力を誇る人気店『麺処晴』のご出身。『晴』は熱狂的なファンを数多く抱え、ファンからの要望に応えるため、数多くの創作ラーメンを限定メニューとして提供している。

 そんな同店で磨き上げた店主の手腕はまさに本物。本年4月9日にオープンして1ヶ月と経たない内に、早くもリピーターを量産。訪問客の数に仕込みが追い付かないほどの人気を獲得するに至っている。

 現在、『陽はまたのぼる』で提供されるメニューは、「煮干しそば」「塩煮干しそば」「濃厚そば」など、修業元から得た煮干しに関する知見が活かし切れるもの。鉄壁の態勢で客の訪れを待つ。

 いずれのメニューもひと口で頬が落ちる逸品だが、まず、召し上がっていただきたいのが「煮干しそば」。白口煮干・背黒煮干・平子煮干・鯵(※)など、多種多様な煮干を柔軟にブレンドして紡ぎ出すスープは、日によって配合する素材の割合はもちろん、種類さえ変化させるこだわりようだ。

 口内にスープが飛び込めば、たちどころに白口煮干の上質な甘みが鼻腔を潤し、その後を追うように、背黒煮干の深遠なコクが味蕾を歓喜へと導く。苦みが少ない平子を絶妙な塩梅で織り込み、フルボディでありながら煮干臭さを完封することに成功。新店と呼ぶにはあまりにも完成度が高い。思わず「美味い!」と声を上げてしまったほどだ。

 このスープとコンビを組む麺は、麺肌が艶やかに輝く容姿端麗な中細ストレート。官能的な触感と確かな存在感を兼ね備えたこの麺は、京都が誇る名門製麺所『麺屋棣鄂』渾身の力作。ひと啜りで、胃袋を鷲づかみにされる感覚を抱かされるクオリティは流石の一言。

 ここまで完全無欠な1杯を提供しながら、未だ試行錯誤の途上というのだから畏れ入る。少なくとも当分の間は、同店の動向から目が離せそうにない。

(撮影◎松山勇樹)

塩煮干しそば(850円)

塩煮干しそば(850円)

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(※)「煮干し」とは?
 煮干しとは、小魚を煮て干したものの総称。概して「煮干し」という一言で片付けられる傾向にあるが、実は、煮干しにも様々な種類が存在する。代表的なものとしては、白口煮干・背黒煮干・平子煮干など。「白口煮干」と「背黒煮干」は、カタクチイワシを原料とした最も生産量が多い煮干しの一種であり、前者は上品な甘み、後者は深いコクが特徴。一方「平子煮干」は、マイワシを原料とする煮干しであり、苦みが少なくアッサリとした味わいを持ち味とする。
 単に煮干しを素材とするだけでなく、『陽はまたのぼる』のように、用いる煮干しの種類にまで気を配ってこそ一流店だと私は考えているが、現状、その領域にまで到達している店舗はさほど多くない。

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●SHOP INFO

陽はまたのぼる

店名:陽はまたのぼる

住:東京都足立区綾瀬2-1-4
TEL:03-6231-2040
営:11:30~15:00
休:水
https://twitter.com/masa_ponkotu
和え玉(醤油・塩)は200円(現金のみ)

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。