昭和レトロな雰囲気の新店『麦萬』の中華そばが超ハイレベル!|田中一明のラーメン官僚主義!

昭和レトロな雰囲気の新店『麦萬』の中華そばがハイレベルすぎる!
中華そば750円 | 食楽web

名店『麺や七彩』出身。修業先で培った技を活かしながらも、味は堂々、我が道を往く

 店舗の場所は、西武池袋線富士見台駅から徒歩3分程度。住んでいる人たちの息遣いが聞こえてくるような生活感あふれる商店街の一角に佇む店舗は、周囲の町並みに溶け込み、まるで、ずっと昔から其処にあるようだ。赤い文字で「味自慢中華そば」と大書された暖簾、屋号が記された趣豊かな提灯。いたずらに飾らない店構えは、昭和時代から続く老舗だと言われても、全く違和感を抱かないほど。
 だが、こちらの『中華そば麦萬』は、紛れもない新店。オープン日は2017年11月25日。産声を上げてまだ2ヶ月程度しか経過していない出来たてのホヤホヤだ。

昭和レトロな外観
昭和レトロな外観

 同店の店主・鈴木氏は、都内の名店『麺や七彩八丁堀店』(※1)のご出身。同店でじっくりと腕を磨いた後、一国一城の主となるべく店を構える場所を探し、富士見台の地に落ち着いた。屋号の由来について尋ねると、「銀座の『萬福』(※2)のような老舗に憧れて『萬』の字を使うことに決めました。『麦』の字は『萬』と合わせると、人気漫画『バクマン。』の読みになるから。それで『麦萬』にしました」と微笑む。そんな店主の言葉からも推察できるとおり、同店が手掛けるラーメンは、老舗が作る1杯のようにノスタルジックなビジュアルが、特に中高年のハートに突き刺さる、まさに「中華そば」と呼ぶに相応しいものだ。

 しかしながら、それだけで、私が同店をこのコラムで紹介するはずがない。提供される「中華そば」の内容がまた、極めてハイレベルなのだ。
 店主は「本当に大したことはしていないんです」と謙遜するが、スープをひと口啜っただけで、目の前の1杯が、単なる昔ながらのラーメンでないことが分かる。

 出汁は、鶏・豚などの動物系素材を排し、魚介素材のみを使用。
 メインとなる素材は、煮干しと昆布。「煮干しにもそれぞれ個性があります。種類によって持ち味が異なるのは当然ですが、種類が同じでも、品質は日によって変わります。そういった日々の変化に応じて、炊き込む際の温度を変えています」。現在は、伊吹産と白子産の煮干しを厳選。スープの表層に漂う油は、ラーメンではあまり使われない「オリーブオイル」。オリーブオイルを使用することで、煮干しの薫りが更に艶やかさを増し、食味に、絶妙な野趣味が加わるのだ。

 このスープに合わせる麺は、修業先仕込みの自家製。モッチリとした麺肌が唇に接触するときに生まれる感覚は、食べ手を虜にするには十分すぎるほど。煮豚ではなく焼き豚にこだわり、一斗缶を使って一本一本ガスコンロで蒸し焼きにする手間暇の掛け方も、ラーメンに対する情熱の強さを物語る。

(撮影◎佐々木和隆)

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(※1)『麺や七彩』は、都内を代表する実力店のひとつ。中でも『八丁堀店』は、注文を受ける都度、小麦粉から製麺を行うエポックメイキングな1軒であり、同店の出身であることは、優良店であることを予測させる大きな判断材料となる。

(※2)『萬福』は、大正時代に屋台から始め、1929年、銀座に店舗を構えた老舗中の老舗。透明な茶褐色のスープに三角形の卵焼きやナルトが載るラーメンは、銀座のソウルフード的存在だ。

●SHOP INFO

店名:中華そば 麦萬

住:東京都中野区上鷺宮4-16-6
TEL:非公開
営:18:00~21:00
休:月
最寄り駅:西武池袋線『富士見台駅』
中華そば(自家製手打ち麺160g)750円、味玉入り中華そば850円、大盛り(麺240g)100円

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。