
JR八王子駅、京王八王子駅を中心とする八王子エリアは、古くから「八王子ラーメン(※)」と呼ばれるご当地麺を提供する店舗が軒を連ね、独自の文化を築き上げてきたラーメンの聖地。
ここで「八王子ラーメン」について少し蘊蓄を述べさせていただくと、このラーメンの歴史は、今から60年以上前(1959年)に創業された『初富士』にまで遡ります。同店で提供されるようになった「八王子ラーメン」は、地元・八王子の人々を中心に好評を持って迎えられ、『みんみんラーメン』『でんでん』『タンタン』『吾衛門』など、同系の錚々たる実力店が誕生。こうした経緯もあって、同エリアは、多摩の他地域に先駆けてラーメン激戦区として認知されるに至りました。
(※)八王子ラーメンとは…… 醤油ベースの透明なスープに動物系素材から採った液状油(ラードを使用する店舗が多い)を合わせ、トッピングにみじん切りのタマネギ(店舗によってはすり下ろしタマネギも併用)を配したご当地ラーメン。2021年現在、50軒近くの店舗が「八王子ラーメン」を提供している。
こうした土壌が形成された状況下において、21世紀初頭(2003年)にオープンしたのが『らーめん楓』。今回ご紹介する『鴨中華そば 楓』の1号店です。『らーめん楓』の店主で、その運営会社(株)スープ&スマイルの代表取締役でもある井ノ川氏は、都内を代表する全国的名店として名を馳せる『麺屋武蔵』で修業し、同店を開業。
同店は、古くから八王子の地に根付いた「八王子ラーメン」とは毛色が全く異なる味を提供することを目指した、八王子における「非八王子ラーメン」のパイオニア的な存在。「笑顔の輪を広げていくラーメン屋になること」をビジョンとして掲げ、「どんな味のラーメンを、どの程度の価格で提供すれば、お客さんにもっと喜んでもらえるのか」をとことん真面目に考えながら、味のブラッシュアップやリニューアルに取り組んできた、折り紙付きの優良店です。

そんな井ノ川氏が本年7月、満を持してオープンさせたセカンドブランドが『鴨中華そば楓』。同店の店舗責任者である瀧谷店長が開業の経緯を語ってくれました。
「2年前に、1号店で『創業16周年記念ラーメン』として、鴨ベースのラーメンを出したことがありました。そのラーメンの素材として用いた『紀州鴨』のポテンシャルの高さに魅せられ、鴨を主役とした店を出したいと考えるようになったのです」
味の向上に一切の妥協を許さない「ラーメン作りの申し子」が、数ある素材の中で特に光り輝く要素を感じた紀州鴨。その鴨を使いたいが故に、鴨ラーメンに特化した店まで作る。ラーメン好きとして、そんな経緯を有する新店を見逃すことができるはずもなく、早速お伺いした次第です。

「うちのメインターゲットは、紀州鴨を味わってみたいと考えている人たちを想定しています。となれば、来訪客はリピーターか口コミによる来店者が中心となることが想定されますので、シンプルで高級感が漂うような外観にしたのです」と瀧谷店長。
確かに、予備知識がなければ、この店がラーメン店であることに気付くことすら難しいかも知れません。押し付けがましさを全く感じない店構えから、シンプルさのみならず、作り手のセンスの良さが垣間見えるような気がするのは、私だけでしょうか。