ラーメンの奥深さを再確認できる店、中野『麺屋はし本』の凄み|田中一明のラーメン官僚主義!

田中一明のラーメン官僚主義!【第13回】麺屋はし本【中野】

食楽web

数多くの実力店で磨いた腕は本物!目指すは2017年のニュースタンダード

「渋谷の『らーめんはやし』さんの味にとことん惚れ込みましてね。あの1杯にほんの少しでも近づきたいと、試行錯誤している最中なんですよ」と笑う店主。質問すれば、大抵のことには気前良く答えてくれる。屈託のない人柄につい長居したくなってしまう。

 同店の店主・橋本氏は、日本を代表するつけ麺の名店『東池袋大勝軒』で修業。その後、『シンガポール大勝軒(東池袋大勝軒シンガポール店)』(※)の店長を任され、この度帰国。本年2月25日、中野の地に自らの名を冠する『麺屋はし本』をオープンさせた。

「店の場所が中野駅から少し距離があるのが、本当に申し訳なくて。遠方から足を運んで下さるお客様もいらっしゃるでしょう。そんな方々にも満足していただけるようなラーメンを創っていきたいんです」。

 店内に設置された券売機の筆頭メニュー「味玉らー麺」にも、そんな店主の切実な想いが、スープの1滴、麺の1本にまで込められる。

 店主がこれまでに獲得した経験を総動員して創られるスープは、リスペクトする『はやし』の味を踏まえながらも、サラリと清涼感のある飲み口に確かな独自性が認められる。鶏・豚を始めとする動物系素材と、鰹節・鯖節を始めとする魚介系素材がうま味の黄金律を奏でる。バランス力に秀で、ひと口啜った瞬間、感嘆のため息がこぼれてしまうほどだ。

 このタイプのスープは、ともすれば温度が低めになりがちだが、店主の卓越した技量によって熱々の状態で提供される点も高評価に値する。序盤は動物系素材の存在感が勝り、食べ進めるにつれ、動物系の合間を縫うように魚介の風味がふわりと立ち上がる。とりわけ、鯖節の立ち上がり方は「荘厳」という言葉すらふさわしい。

 このスープに合わせる麺は、名門『三河屋製麺』製の低加水ストレート。ツルンと滑らかな食感とシコっとした噛み心地が見事に両立。食べ手に心地良い余韻を刻み込む。

『中華そば青葉』以来の伝統を有する正統派の動物+魚介系ラーメン。食べ慣れたはずの味でも、細部にまで手を抜かず丁寧に磨き上げれば、ここまで心揺さぶられる1杯になるのか。

 ラーメンという料理の奥深さを再認識させられたような気がした。

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(※)同店のもう一つのメニューである「辛味らー麺」には、マレーシア産の香辛料である「チリパディ」が使用される。「チリパディ」とは「小粒の唐辛子」という意味。日本の唐辛子よりもはるかに辛みが強く、かつ、サイズが小さければ小さいほど辛みが増すとされる。橋本店主が『シンガポール大勝軒』に勤めていたときに、「これはラーメンにも使える」と着目した食材である。

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●SHOP INFO

麺屋はし本

店名:麺屋はし本

住:東京都中野区新井1-25-4
TEL:03-3386-0550
営:11:30~20:00
休:水
メニューは、らー麺(750円)、味玉らー麺(850円)、辛味らー麺(850円)など