ラーメン官僚が推す一杯! 『中華蕎麦きつね』(芦花公園)の油揚げ入り「中華蕎麦」とは?

ラーメン官僚が推す一杯! 『中華蕎麦きつね』(芦花公園)の油揚げ入り「中華蕎麦」とは?
食楽web

夫婦二人三脚で紡ぐ、令和2年発の新機軸ラーメンに、身も心もほっこり!

 調布、府中、多摩センター、八王子等の多摩地区の主要都市、笹塚、明大前等の23区西部の主要都市を貫く、京王電鉄京王線。そんな京王線沿線において、各駅停車しか停車せず「いぶし銀」的な存在感を放っているのが、芦花公園駅。

 同駅の周辺エリアは、京王線沿線の中でも指折りの高級住宅地として知られ、地区内には緑豊かな自然が随所に残る。適度に閑静な生活環境も大きな魅力のひとつで、芦花公園を「いつかは住んでみたい憧れの街」に掲げる者は、決して少なくない。

「中華蕎麦」850円
「中華蕎麦」850円

 そんな同地に、2020年1月31日にオープンした新店が、今回ご紹介する『中華蕎麦きつね』だ。

 ロケーションは、芦花公園駅の出口から50m弱。ほぼ「駅の目の前」と言っても過言ではない立地は、極めて至便。加えて同店は、駅と住居とを繋ぐ動線の真上に位置。そんな諸々の「強み」も相まって、私が訪問した時も、電車が停車する度に、会社帰りとおぼしきスーツ姿の社会人の人々が店の暖簾を潜るという好循環を生んでいた。

 現在、『中華蕎麦きつね』が提供する麺メニューは2種類。清湯ベースの「中華蕎麦」と、白湯ベースの「濃厚中華蕎麦」だ。

写真手前がご主人の水上辰徳さん、奥が夫人の那々子さん
写真手前がご主人の水上辰徳さん、奥が夫人の那々子さん

 屋号の『きつね』が示すとおり、「中華蕎麦」「濃厚中華蕎麦」ともに、トッピングとして搭載される巨大な「油揚げ」が、極めてインプレッシブ。

「一般的に、ラーメンのトッピングと言えば、チャーシュー・メンマ・ナルト・ネギあたりが相場じゃないですか。この店を開業する前、自分たちが提供するラーメンの在り方を、散々考え抜きました。思案を重ねるうちに『思い切って、定番以外のトッピングを採用してみるのも面白いのでは』という結論に至りました。個人的に『きつねうどん』も大好物ですし(笑)」

 いずれのメニューの完成度も、オープンしたばかりの新店とは思えない程の高さだが、特におススメしたいのが、舌がとろけるような油揚げの甘みが、スープと夫婦のような相性の良さを示す「中華蕎麦」。

啜り心地の良いうどんを彷彿とさせるシルキーな麺
啜り心地の良いうどんを彷彿とさせるシルキーな麺

 ご夫婦が日夜膝を突き合わせながら、提供したい理想の味のイメージを思い描き、そのイメージに限りなく近付けるため、試作を重ねて完成させた1杯は、個々の素材の突出を極力回避。出汁を構成する各種素材の魅力を差別なく引き出し、仲睦まじく共存・共栄させることで、単独の素材からでは成し得ない、ドッシリと地に根を生やしたうま味の「塊(コア)」を表現することに成功。

 スープの味わいが、油揚げの甘みの輪郭をより一層際立たせる役割を果たしている点も、開発過程における試行錯誤が生んだ大きな成果だ。「スープの甘みが過度に及ぶと、その甘みが、折角の油揚げの甘みを相殺してしまいます。そうならないよう、出汁を採る素材から、旨み成分だけを丁寧に抽出していきました」。

丼の底を見通せるほどに澄んだスープ。ほのかに感じる魚介の香りが心地よい
丼の底を見通せるほどに澄んだスープ。ほのかに感じる魚介の香りが心地よい

 ご主人と女将さんのお二人が、これまでの飲食店で培ったノウハウを総動員し、紡ぎ出した渾身の1杯。レンゲを口元へと手繰り寄せ、ズズっとスープを啜れば、動物系素材の重厚なコクと節の艶やかな香味とが、磁石のN極とS極のように、ピタリと寄り添い一体化。旨みの競演を知覚した刹那、立て続けに味蕾を強襲する昆布の滋味の塩梅も的確無比。味覚中枢のど真ん中をズバンと射抜く。

 ジュワッと甘汁がほとばしる油揚げを頬張りつつ、スープをまたひと口。「桃源郷の境地」とはまさにこのこと。思わず時間の経過も忘れ、丼の中の小宇宙へと没入してしまった。

・・・・・・・

(※)同店は、年若いご夫婦お二人で経営しているが、「夫婦が同等の立場で、担当する仕事に責任を持ちたい」というモットーの下、店主をいずれか一方に定めない『共同店主(2人とも店主)』という営業形態を採っている。
 具体的な分担は、ご主人がラーメンづくり全般、女将さんが接客、営業、サイドメニュー(いなり寿司)の仕込み。ということなので、今回、取材に答えていただいたのは、(取材を受けることは営業の一環なので)女将さんということになる。

●SHOP INFO

中華蕎麦きつね(ちゅうかそばきつね) 外観

中華蕎麦きつね(ちゅうかそばきつね)

住:東京都世田谷区南烏山3-3-1
TEL:非公開
営:11:00~21:00
休:水曜

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。