新店とは思えぬ完成度!東十条『机上の空論』の「味玉中華そば」に感服|田中一明のラーメン官僚主義!

新店とは思えぬ完成度!東十条『机上の空論』の「味玉中華そば」は感服するしかない一杯
「味玉中華そば」820円 | 食楽web

ラーメンづくりに心血を注ぐ。独特の屋号から垣間見える、店主の覚悟に敬服

 オープン日は11月9日。店舗の場所は、JR東十条駅から延びる『東十条商店街』の一角。地下鉄メトロ王子神谷駅からも徒歩圏だが、東十条駅で下車し、商店街をぶらりと散策しながら、ゆっくりとアクセスするのも一興だ。

 店主・泉氏は、都内の実力店『田中商店』の系列である『つし馬』、『田中屋』で修業し独立。『机上の空論』というユニークな店名は、店主が、よりハイレベルな1杯を作ろうと試行錯誤するサマを表現したもの。「ラーメンの味をブラッシュアップしようと思案を巡らせる。それは、作り手にとっては当然のことですが、お客さんにとっては意味のない『机上の空論』に他なりません。ですが、可能であれば、そんな試行錯誤の跡を、お客さんに感じ取っていただければうれしいし、感じ取ってもらえるような1杯を創りたい。そんな想いを込めて『机上の空論』と名付けました」。

 オススメは、基本メニューである「中華そば」に味付玉子をトッピングした、「味玉中華そば」。

 スープには、日向鶏(※1)のガラ&丸鶏、豚のゲンコツ&背脂のほか、香味野菜・煮干し・カツオ・昆布などを使用。タレは5種類の醤油をブレンドした上で、リンゴ酢を溶け込ませる。「ですが、用いる素材のブランドや銘柄に、特にこだわりはないんです。ありきたりの食材で、お客さんに満足していただける味を創る。素材に頼らない分、作り手の手腕が求められますが、だからこそやり甲斐があります」と笑う。

 このような過程を経て紡ぎ出されたスープは、見つめると吸い込まれてしまいそうになるほど深い琥珀色が印象的。出汁とタレとが固く手を結び、互いの魅力を引き立て合う。昆布の滋味とリンゴ酢の甘みが、寸分の誤差もなく味覚中枢のど真ん中を貫き、食べ手の頬を緩ませる。ビジュアル・内容ともに、新店とは思えないほどの完成度の高さだ。

 このスープに合わせる麺は、相模原『中根製麺』(※2)のストレート。かつて神奈川ラーメンシーンの頂点に君臨した『69’N’ROLL ONE(ロックンロールワン)』(※3)の1杯に憧れ、何度も製麺所に通った末、手に入れたものだという。

「自分はまだ、駆け出しの身の上。もっと腕を磨かなければ」と店主。『机上の空論』という店名は、もしかすると「どんなことがあっても、ラーメンについて考えることを止めないように」という、自身への戒めの言葉なのかも知れない。

(撮影◎佐々木和隆)

・・・・・・・

(※1)日向鶏とは?
低脂肪、低カロリー、低コレステロールであることを特徴とする、宮崎県産の銘柄鶏。

(※2)中根製麺とは?
『69’N’ROLL ONE』が、特注して取り寄せていた神奈川県・相模原の製麺所。

(※3)『69’N’ROLL ONE』とは?
 かつて神奈川県のラーメンシーンの頂点に君臨した、淡麗系ラーメンの名店。特に、2000年代後半における神奈川県内での人気ぶりは、他店舗を一切寄せ付けない圧倒的なものだった。2005年12月に神奈川県相模原市で創業。2011年に町田、2013年に赤坂へと移転し、それぞれの移転先で絶大な人気を博した。2014年7月、関東から関西(兵庫県尼崎市)に移転。その際、店名を『ロックンビリーS1』へと変更し、現在に至る。同店の店主・嶋崎氏は、鶏ベースの淡麗ラーメンの基礎を築き上げた希代の天才であり、同店主に憧れる同業者も多い。

●SHOP INFO

我的中華そば 机上の空論

店名:我的中華そば 机上の空論

住:東京都北区東十条3-11-5
TEL:非公開
営:11:30~14:30 17:30~21:30
  【日】11:30~14:30
※材料がなくなり次第終了
休:月・日曜夜
中華そば700円、煮干し中華そば720円の他、のり、味玉、チャーシュー等もトッピング可

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。