2つで1つの異色店「中華そばあの小宮」&「豚骨麺あの小宮」が旨い|田中一明のラーメン官僚主義!

「中華そば あの小宮」の〈中華そば〉800円 | 食楽web

元部下が『つけめんTETSU』創業者・小宮氏に捧ぐ、2軒の贈り物

 2000年代中期以降の都内のラーメンシーンを支え、けん引してきた『つけめんTETSU』。同店の創業者である小宮氏のために、同氏の元部下たちが、本年8月11日、2軒の新店を立ち上げた。それが、『中華そばあの小宮』と『豚骨麺あの小宮』だ。

 8月11日は、小宮氏が千駄木に『つけめんTETSU』を創業し、ラーメン職人の道を歩み始めたメモリアルデー。そんな特別な日をオープン日に選び、屋号に「小宮」の名を掲げる。師を想う弟子たちの愛情に思いを馳せると、胸が熱くなる。

 冒頭に述べたとおり、『あの小宮』は、『中華そばあの小宮』と『豚骨麺あの小宮』の2軒でワンセット(※1)。前者では淡麗タイプの「中華そば」、後者では純豚骨ベースの「らーめん」を提供する。味をプロデュースした小宮氏が、「これから一国一城の主となる部下への餞(はなむけ)として、渾身の気合いを込めて創った」と言い切るだけのことはあり、「中華そば」「らーめん」ともに、その出来映えは、これまで同氏が手掛けてきた数々のラーメンの中でも指折りの水準の高さを誇る。

「中華そば」は、豚肉・豚骨・鶏ガラから採った出汁に、苦味とエグ味を徹底的に取り除いたウルメの煮干しを丁寧に折り重ねたスープが、食べ手の舌を恍惚の境地へと引きずり込む。今回は、小宮氏のお家芸だったワンポイントを際立たせる製法を捨て、バランスを徹底的に追求。豚・鶏・煮干しなどの素材はもちろん、ノスタルジーを惹起させる佇まい・素材感・醤油ダレの風味などのマクロな要素をも調和させ、一体化させる。味わえば味わうほど、噛み締めれば噛み締めるほど、この組合せとバランスがベストであるように思えてくる。「作り手として再デビューさせていただくような気持ちで、全身全霊を込めて創りました」という言葉に偽りはない。

「らーめん」は、元々無類のラーメン好きだった小宮氏の豚骨ラーメン観を、ひとつのカタチとして提示したものだ。「単なる九州豚骨ラーメンではなく、和歌山のような豚骨醤油の聖地で提供されているラーメンも参考にした」という1杯は、スープの素材として豚しか用いていないにもかかわらず、春夏秋冬のように移ろう重層的なうま味が、食べ手を圧倒する。

 小宮氏がかつて手掛けた、五反田の実力店『いつものねかせ屋』(※2)のラーメンは、彼自身が今、一番食べたい1杯を具現化したものだった。その表現を拝借すれば、『あの小宮』で提供されるラーメンは、彼が今、一番作ってみたい1杯なのかも知れない。スープを啜っている内に、そんな気持ちが伝わってくるような気がした。

「豚骨麺 あの小宮」の〈らーめん〉750円

(撮影◎松山勇樹)

・・・・・・・

(※1)『中華そばあの小宮』と『豚骨麺あの小宮』は、東急東横線・都立大学駅の高架下に店舗を構えており、高架を挟んで背中合わせに立地している。一方の入口からもう一方の入口までの距離は、10メートル程度。ゆえに、両店で連食するマニアも数多く存在するものと推測される。

(※2)『いつものねかせ屋』とは?

 小宮氏が「今、自分が一番食べてみたいラーメンを提供する店舗を出したい」と、五反田エリアにオープンさせた店舗。アゴ(トビウオ)・昆布・椎茸等を丁寧に煮込んだスープが好評を博したが、昨年12月30日に閉店。

・・・・・・・

●SHOP INFO

「中華そば あの小宮」「豚骨麺 あの小宮」

店名:「中華そば あの小宮」「豚骨麺 あの小宮」

住:東京都目黒区中根1-5-1
TEL:03-5726-9115
営:11:30〜15:00 17:30〜23:00
休:なし
※2店は駅高架下に背中合わせで立地しています

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。