ラーメン官僚の2017年最優秀ラーメン店『Tombo』は一体何が旨いのか?

ラーメン官僚の2017年最優秀ラーメン店『Tombo』は一体何が旨いのか?
「醤油の旨味ソバ」780円 | 食楽web

ラーメンらしさとトータルバランスにこだわり抜く。この1杯こそ、まさに2017年のラーメンの頂!

 吉祥寺駅前の雑踏を抜け、井ノ頭通りを松庵の方角へと直進すること約10分。背の高い建物が徐々に風景から姿を消し、「そろそろ、店舗が見えてきても良い頃合いではないか」と、不安になってくるタイミングで姿を現すのが、今回ご紹介する『Tombo』。
 オープン日は、本年9月2日。店主・榎本氏は、都内を代表する実力店のひとつ『我流旨味ソバ地雷源(リニューアルし、現在は『肉煮干し中華そばさいころ』として中野で営業中)』の味に魅せられ、同店への入店を熱望。晴れて採用された後、『地雷源グループ』に属する複数の店舗の最前線を渡り歩いた、『地雷源』のすべてを知る者だ。

 自店を開業するに当たり、「自分が毎日食べてもおいしいと思える1杯」を作ろうと、心に誓ったという。「私は『地雷源』グループの味が好きです。作り手としてはもちろん、食べ手としても。そんな『地雷源』の味を自分なりに解釈・咀嚼し、自分好みの味へと寄せていく。オープンしてから、既に味を何度もバージョンアップさせてますよ」と笑う。

 ラーメンの味を組み立てる際に店主が心掛けていることは、他にもある。トータルバランスが取れた内容になっているかどうかだ。
「最近、鶏を前面に押し出した鶏清湯ラーメンを手掛ける店をよく見掛けます。確かに、味は非常に洗練されているんですが、他方、ラーメンには適度な品の悪さも必要だと思うんです。どうすれば『ラーメンらしさ』を表現できるのかも考えながら、最適なバランスを探っていきたいですね」。
 そんな榎本店主が手掛ける「醤油の旨味ソバ」の出汁は、丸鶏に加えて豚を採用(※1)。油も、淡麗ラーメンの定番である鶏油のほか、豚の油と香味油も用いる。「『豚』は、自分自身のラーメンを表現する上で、必要不可欠な食材です。豚が入ると、ラーメンらしさが格段に増し、うま味に落ち着きが生まれます」。
 別々の寸胴で鶏と豚から出汁を採り、シイタケ・昆布・サバ・カツオ・宗田節などから採った魚介出汁を合わせれば、『Tombo』のスープの完成だ(※2)。昆布は、グルタミン酸のうま味を十二分に引き出すことができる「真昆布」を採用。

 「もちろん、カエシにもこだわってますよ。醤油は、私の地元・静岡から取り寄せた、再仕込み醤油と濃口醤油を使っています。それに、味醂・日本酒を加えると風味が格段に増すんです。面白いですよね」。スープを含めば瞬時に、甘辛いカエシの風味が口の中いっぱいに拡がる。その直後、重層的なうま味を宿した出汁がカエシを力強く支えるダイナミックな構成。出汁だけでもカエシだけでもない、双方のうま味で食べ手を魅了する。この1杯こそ、まさに2017年のラーメンのベスト・オブ・ベストだ。

(撮影◎佐々木和隆)

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(※1)別々の寸胴で、丸鶏の出汁と豚の出汁を仕込む。丸鶏の出汁は45リットル、豚の出汁は30リットル作り、完成後、丸鶏の寸胴に注ぎ込むダブルスープの手法を採用している。

(※2)すなわち、丸鶏の出汁・豚の出汁・魚介出汁のトリプルスープ(3種類の出汁を別の寸胴で作り、提供前に合わせること)ということになる。1種類の動物系出汁を2種類の魚介出汁と合わせるトリプルスープは、現在、それほど珍しいものではないが、動物系出汁のダブルスープを採用する店は、非常に珍しい。

●SHOP INFO

Tombo

店名:Tombo

住:東京都武蔵野市吉祥寺南町4-16-12 リヒトハイム101
TEL:0422-777-590
営:11:30~14:30
  17:30~21:00(スープ無くなり次第終了)
休:水
醤油の旨味ソバ、汐の旨味ソバ(共に780円)、醤油のつけソバ、汐のつけソバ(共に小750円~)、まぜソバ(680円)などがある。

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。