
当たり前の素材を磨き上げ「珠」と化す。
素材への愛情とバランスの良さへの配慮が、至高の味を生む!
新宿中心部の賑わいが嘘のように静かな、新宿御苑エリアの路地。ゆったりと落ち着いた雰囲気が真綿のように優しく包み込む店内の雰囲気は、じっくりと腰を落ち着けてラーメンづくりに励むには最適の環境だ。そんな環境に居を構える『麺宿志いな』は、本年7月24日にオープンしたばかりのニューフェイス。店主・椎名氏は、イタリアン業界からラーメン業界へと参入した風雲児。水道橋の実力店『征麺家かぐら屋』の創業メンバーに名を連ね、着実に実力を蓄えた後、満を持して『志いな』を開業。第二のラーメン人生のスタートを切った。

「イタリアン料理店で修業をしていた若手の頃、当時の師匠から『料理の善し悪しはうま味のバランスによって決まる。いくら注意してもし過ぎることはない』と徹底的に教え込まれたんです」と述懐する椎名店主。
現在『志いな』が手掛けるレギュラーメニューは、あっさり清湯系の「潮そば」「醤油そば」と、濃厚白湯系の「鶏白湯そば」「つけそば」の4種類。いずれのメニューの完成度も高いが、中でも特に強く推したいのが、筆頭メニューである「潮そば」。

スープの出汁は、「大山鶏」と「総州古白鶏(そうしゅうこはくどり)」の丸鶏・鶏ガラ・モミジを主軸に、ホンビノス貝と香味野菜を合わせてじっくりと煮込んだもの。出汁だけではない。タレも、山海の滋味を「イタリアの岩塩」「瀬戸内の藻塩」「伯方の塩」をブレンドした塩に重ね合わせるこだわりよう。山海の滋味は、昆布・煮干し・カツオ・干し貝柱・スルメ・アサリ・干し椎茸という多士済々ぶり。出汁やタレに用いる水に「エレン水(※)」を採用し、素材の持ち味を極限まで引き出す工夫は、『かぐら屋』在籍時代に編み出した技だ。

「高級素材には興味がありません。肝心なのは、料理の仕方だと思うから。各々の素材の魅力を1つひとつ丁寧に拾い上げることができれば、結果として自ずと『味』は付いてきます」。その際、特定のうま味を突出させないように心掛けているという。「個性がマチマチなうま味を、違和感なく一体化させることが重要です」。食べ手から賛辞の言葉を引き出す「カギ」はバランスの良さにあると、椎名氏は断言する。

昆布と貝が先導する塩ダレの香味が食べ手の味蕾を震撼させ、その後、じわりと伸び上がり味覚を侵襲する鶏出汁の素材感。意識することなくゴクゴクと飲み干せてしまうスープは、うま味のバランスの良さのなせる業。スープと鶏チャーシューの風味を夫婦のごとく馴染ませるなど、対象をスープ以外にまで拡げても一分の隙も見当たらない。まさに、「塩淡麗の答え」とでも言うべき良杯だ。
・・・・・・・
(※)エレン水とは?
数十種類に及ぶ宝石や鉱石を高温で溶解して作ったセラミックスでフィルターを作り、そのフィルターで、水道水に含まれる不純物を濾過し取り除いた水のこと。食材の持ち味を最大限に引き出す効果を持つと言われる。『ミシュランガイド東京2018』で1つ星を獲得した『創作麺工房鳴龍@大塚』でもエレン水が用いられている。
●SHOP INFO

店名:麺宿志いな(めんじゅくしいな)
住:東京都新宿区四谷4-30-15 市川ビル 1F
TEL:03-6875-5594
営:11:00~16:00、18:00~21:00
休:日曜
●著者プロフィール
田中一明
フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。