鶏と鰹節の黄金比。三鷹のラーメン新店『鶏こく中華すず喜』が旨すぎる|田中一明のラーメン官僚主義!

鶏と鰹節の黄金比。三鷹に登場したラーメン『鶏こく中華すず喜』が旨すぎる!
「こく塩」(800円) | 食楽web

手掛ける1杯は、職人人生の集大成。じっくりと味わい、想いを受け止めよ!

 ロケーションは、JR三鷹駅南口から徒歩5分程度。このエリアは現在、着々と再開発が進行しつつあるが、未だ、昭和の風情が色濃く漂うスポットも数多く残る。今回ご紹介する『鶏こく中華すず喜』が佇む飲食店街『味の散歩道』も、そんなノスタルジックな空間のひとつ。公団アパートに掲げられた『味の散歩道』の黄色い看板は、遠くからでもよく目立つ地域のランドマーク的存在。その看板の下を潜り、地下へと続く階段を降りれば、店舗はすぐ目の前だ。

客にも同業者にも慕われる“すーさん”こと鈴木信介さん
客にも同業者にも慕われる“すーさん”こと鈴木信介さん

 店主・鈴木氏(※)は、中華の世界で腕を磨いた後、『とらのこグループ』を立ち上げ、『麺屋とらのこ(閉店)』『麺酒やまの』など、数々の実力店を手掛けてきたラーメン界の風雲児。

「これまで、様々なお店を立ち上げてきましたが、この『すず喜』に関しては、特別な想いがあります。ラーメン店を手掛けるようになって、はや10数年。手広く店を展開するようになってからは、自らが厨房に立つ機会も減ってしまいました。だから、このお店では、自分が『店主』として常に厨房に立ち、お客さんの顔を見ながら自らの手でラーメンを作っていきたいんです」

 自らの名を冠した店名にも、そんな店主の気概が込められる。

「こく醤油」(800円)
「こく醤油」(800円)

 同店が手掛ける麺メニューは、主に「こく塩」「こく醤油」及び、店主が作り手としての経験を総動員して創り上げる限定メニューの3品。いずれのメニューもハイクオリティだが、私がまずオススメしたいのは、基本メニューである「こく塩」。

 見目麗しい褐色を呈したスープは、丁寧に砕いた鶏ガラの小骨、豊潤な肉の風味が演出できる手羽先・手羽元に、ニンニク・生姜・根コンブなどを合わせ、徹底的に煮込んだ動物系出汁と、サンマ節・アジ節・サバ節を丹念に炊き込んだ魚介出汁とを、4:6の割合でブレンドしたもの。この出汁とコラボさせる塩ダレにも、出汁に採用したサンマ節とコンブを溶け込ませ、うま味のシンクロニシティを狙う。

 このスープと合わせる麺は、ライ麦全粒粉を練り込むことで大地の香りを全面的にフィーチャーした、名門『三河屋製麺』製の中細ストレート。トッピングにも一切の死角は見当たらない。例えば、チャーシューには、鶏モモ肉と鶏ムネ肉の2種類を配し、スープに含まれる鶏の旨みと巧みにハーモナイズさせる。

 口腔内であふれ返る節由来の和風味が、揺るぎのない鶏の滋味を土台として、味覚中枢に力強く訴えかけてくる。「ひと口啜った瞬間、鈴木店主が創られた1杯だと分かりました。作り手の顔が見える1杯って素敵ですね」と感想を述べると、満面の笑みで応えてくれた店主。皿洗いを45分間手伝うと無料でラーメンが食べられる「まかないシステム」など、店主ならではのサービスも、絶賛開催中。手伝いを申し出て、労働後の1杯を満喫するのも、大いに「アリ」だろう。

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(※)鈴木氏とは?
ラーメン好きの間で、「すーさん」と呼ばれる業界屈指の人気を誇る作り手。屈託のないざっくばらんな性格が持ち味で、食べ手、作り手を問わず、同氏を慕うファンは多い。本文にあるとおり、『麺屋とらのこ』『麺酒やまの』など、数多くのラーメン店を手掛けてきたことでも有名だが、ラーメン以外の料理の創作技術も折り紙付き。

●SHOP INFO

鶏こく中華 すず喜

店名:鶏こく中華 すず喜

住:東京都三鷹市下連雀3-28-21 公団三鷹駅前第2アパートB-1
TEL:070-2797-8807
営:11:00~15:30、土日祝11:00~16:00
休:月
https://twitter.com/suzuki_friends

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。