店主は、人気店『麺屋武蔵』で研鑽!想いを寄せるのは岩手産鴨ひとすじ
扉を開けると、「いらっしゃいませ!」と元気な声が客を出迎える。ラーメン提供時に「丼が熱くなっておりますので、お気を付け下さい」とひと言添える細やかな気遣いも心憎い。結局、入店時から退店時に至るまで、接客態度が綻びを見せることは全くなかった。
そんな好感度の高い新店『麺屋福丸』がオープンしたのは、本年6月1日。同店を切り盛りする店主・戎(えびす)氏は、都内を代表する人気店『麺屋武蔵』の系列店を複数渡り歩き研鑽。自店を構えるに当たり、ラーメンの「顔」となる素材として「鴨」を抜擢。「仙川の『中華そばしば田』のように、鴨を縦横無尽に使いこなしてみたい。それが『鴨』を採用する決め手となりました」。
用いる鴨の産地にもこだわる。「私の出身が青森でしてね。東北産の食材をどんどん採り入れ、少しでも故郷に恩返しをしていきたい(※1)」。
「鴨だし白湯ラーメン」「鴨だし辛つけ麺」といったレアメニューも提供するが、万人からの支持を得るスタンダードとして君臨するのが「鴨だし醤油ラーメン」。出汁は、雄大な自然に抱かれて育った岩手県産の鴨を100パーセント使用。出汁のみならず油にまで鴨を用いる徹底ぶりだ。
タレには、あきる野市の『キッコーゴ醤油』を採用(※2)。店主の修業先のひとつである『武蔵虎嘯』の「ら~麺」に使用され、無双のパフォーマンスを発揮している名門醸造所の醤油だ。口に含めば、グイッと舌先が押し付けられるような醤油の力強いコクに、野趣味あふれる鴨の滋味がクロスオーバー。清湯スープとは思えぬほど激しく、タレと鴨とがせめぎ合う。
食べ進めている内に目に留まるのが、プカリとスープに浮かぶ肉のかたまり。「この挽肉も鴨を使っているんですよ」と店主。
中盤以降、肉塊がほぐれスープと一体化。鴨出汁・鴨油・鴨挽肉の3者が奏でるシンフォニーは、重厚かつ荘厳。異なる部位に由来する様々なうま味が丼の中で合わさり、一羽の鴨の輪郭を描き出す。その味わいたるや、数多くの鴨ラーメンを食してきた猛者でさえ感嘆のため息を漏らしてしまうほどだ。
麺の選球眼もお見事の一言に尽きる。スープの持ち上げがすこぶる良好な『カネジン食品』製の中細ストレートを採用。唇を撫でるしっとりとした麺肌の感触は、忘我の境地に陥ってしまうほど艶っぽい。
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(※1)戎店主の夢は、ラーメンを構成する全ての素材を、店主の故郷である青森産のもので揃えるというもの。
(※2)タレには、醤油のほか、アサリ、コンブなどの魚介素材を使用している。一般的に、タレに魚介素材、とりわけ貝類を用いる手法は、少量で訴求力のあるうま味を演出しようとする場合に頻繁に用いられる。
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(撮影◎松山勇樹)
●SHOP INFO
店名:麺屋 福丸
住:東京都渋谷区幡ヶ谷1-9-6 リッツ幡ヶ谷1階
TEL:03-6276-0027
営:11:00~15:00、18:00~23:00、[日・祝]11:00~22:00
休:月
●著者プロフィール
田中一明
フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。現在までの通算杯数は8,000杯を超える。