これぞ至極の鴨ラーメン! ラーメン官僚が八王子『鴨中華そば 楓』を絶賛する理由

繊細さと力強さを兼ね備える絶品「紀州鴨中華そば」

「紀州鴨中華そば」950円
「紀州鴨中華そば」950円

 入店すると、進行方向の左手に券売機が鎮座。2021年10月1日現在、同店が提供する麺メニューは、いずれも鴨を素材とする1杯。「紀州鴨中華そば」「紀州鴨白湯つけめん」「紀州鴨蛤塩そば」の3種類です。どの1杯も、甲乙付けがたい完成度の高さを誇りますが、基本メニューは「紀州鴨中華そば」。なので、初訪問時には、そちらを召し上がっていただくことを推奨します。

 厨房に立つのは、瀧谷店長と腕利きのラーメン職人たち。店長と麺茹でを担当するスタッフとの呼吸がピタリと合った、流れるようにスムーズなオペレーション。思わず見惚れてしまいそうになるほど無駄のない動きが、眼の前で展開されます。

 待ち時間5分程度で「紀州鴨中華そば」が完成。スープは、和歌山県の太田養鶏場で伸び伸びと育てられた紀州鴨に、真昆布・リンゴ・野菜(生姜、ネギ等)を合わせたもの。その製法は、まさに緻密かつ丁寧。

これがスープの素材に使われる紀州鴨。1羽で12食分になる
これがスープの素材に使われる紀州鴨。1羽で12食分になる

 前日から真昆布を水出しし、翌朝、低温でうま味をじっくりと抽出。昆布を抜いた後、チャーシューとなる部位(ロース)を除いた紀州鴨を丸ごと寸胴へと投入。沸騰しないギリギリの温度(95℃)をキープさせながら、8時間掛けて炊き上げたものです。

「スープづくりが終わる1時間前のタイミングで、さらにリンゴ・生姜・ネギ等の野菜を寸胴に投入し、鴨のうま味と馴染ませます」(瀧谷店長)

鴨と醤油が融合した美しいスープ
鴨と醤油が融合した美しいスープ

 鴨1羽を丸々使っても12食分にしかならないほど、贅沢に鴨を使用。スープの表面に浮かぶ鴨脂の厳かな香りも相まって、ひと口啜った瞬間、ふわりと優しく膨らむ上質な和風味に、感嘆のため息が漏れ出してしまいそうになりました。

 このスープに合わせるカエシもまた、こだわりの塊です。醤油発祥の地・和歌山県湯浅のたまり醤油『九曜むらさき』に、東京都町田市の名門醸造所・岡直三郎商店の『日本一しょうゆ』を合わせ、噛み締めるほどに味わいに深みと奥行きが生まれる傑物。

 紀州鴨と真昆布が持ち合わせる素材本来のうま味を、カエシがくっきりと際立たせ、ワンランク上の高みへと押し上げることに成功している点も、特筆に値します。

左が「手揉み麺」。右が「細ストレート麺」
左が「手揉み麺」。右が「細ストレート麺」

 このスープと合わせる麺は自家製。「細ストレート麺」と「手揉み麺」の2種類が用意され、好きなほうを選ぶことができます。

「細ストレート麺」は、1号店で長年使い続けている、風味良好でコシが強い『春よ恋生一本』が主役。それに『もち姫(モチ麦)』と『はるきらり(強力粉)』を合わせることで、類い稀な弾力性としなやかさも演出。

「手揉み麺」は、同じく『春よ来生一本』をメインに、中力粉の『チクゴイズミ』や香り豊潤な『ライ麦』を配合したもの。こちらは、提供する直前に丹念な手揉みが施されます。

「ストレート麺は力強い鴨に寄り添うイメージ、手揉み麺は力強い鴨に負けずに鴨の持ち味を引き出すイメージで作りました」と瀧谷店長。

手揉みの程よい縮れ加減が力強くスープを持ち上げる
手揉みの程よい縮れ加減が力強くスープを持ち上げる

 私は「手揉み麺」をいただきましたが、スープを過不足なく持ち上げ口元へと運び込む八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍ぶりに、ただただ感服。宙を舞う小麦の香りが鼻腔を心地良くくすぐり、手で揉むことによって生まれるメリハリの効いた啜り心地が、箸を持つ手を止めさせてくれません。

臭みを一切感じさせない鴨肉はまさに絶品
臭みを一切感じさせない鴨肉はまさに絶品

 トッピングのジューシーな鴨肉を時折頬張りながら、夢中になって麺とスープを啜っているうちに、いつの間にか丼は空っぽに。“啜る”という行為が悦楽に満ちたものであることを、改めて実感させられました。

「これからも唯一無二の鴨体験を地道に提供し、お客さんに『足を運びたい』『大切な人と食べに行きたい』と感じていただける存在になれればと思います」と抱負を語る瀧谷店長。

 オープンしてからわずか数ヶ月の新店とは思えないほど、ハイレベルかつ洗練された1杯。間違いなく、2021年の新店の中でも指折りの優良杯でしょう。今後、このお店が八王子のラーメンシーンに与える好影響。それは、間違いなく計り知れないほど大きなものとなりそうです。

店長(瀧谷 慶二郎氏)のプロフィール

・立川の人気店、三鷹の実力店で計3年間修業した後、井ノ川氏が率いる「 (株)スープ&スマイル」に入社。
・入社後、『らーめん楓』で更に2年間腕を磨いた後、店舗責任者兼店長として、2号店である『鴨中華そば楓』を任されるに至る。

●SHOP INFO

鴨中華そば 楓 (かもちゅうかそばかえで)外観

店名:鴨中華そば 楓 (かもちゅうかそばかえで)

住:東京都八王子市明神町3-24-12 フィシオ京王八王子 1F
TEL:非公開
営:11:30~14:30、17:30~21:30 ※緊急事態宣言発令中の夜の部は17:30~20:00
休:火曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。