2022年を象徴する1杯。魚の旨みと乾物の滋味が光る驚天動地の絶品|『らーめん梶原』(千歳烏山)

人形町の優良店『麺やまらぁ』を皮切りに、都内を代表する人気店『ムタヒロ』の店長まで務め上げた、ラーメン職人歴10年のキャリアを誇る梶原壽之店主が、満を持して開業したのがこの『らーめん梶原』だ。
現在、『梶原』が提供する麺メニューは、「醤油らーめん」と「塩らーめん」の2種類。どちらも甲乙がつけられないほどハイレベルだが、どちらか1杯しか食べられないとすれば、私は「塩らーめん」を推したい。

スープの雫が味蕾に触れた瞬間、トビウオの芳香と釧路昆布の滋味がクロスオーバー。1本の大きな奔流と化し、味覚中枢を際限なく侵襲する。さらに吟味を続けると、どっしりと重厚なうま味を喉元が探知。この地に足が付いた厳かなうま味は、川魚である「四万十産鮎」の焼き干しによるものだ。

序盤は幾種もの魚介の風味が口内で輻輳(ふくそう)し、中盤以降はスープに溶け込んだ山椒の涼やかな香りが鼻腔を軽やかに刺激。朴訥なように見えて、その実、精緻を極めたストーリー性を感じる納得の味わい。カエシに用いられた奥能登産天然塩も喉奥で雄々しく伸び上がり、スープを飲み尽くすまで、レンゲを持つ手が止まることはないだろう。

麺の完成度の高さも特筆に値する。「春よ恋」「きたほなみ」など、数種類の国産小麦を、絶妙なバランス感覚でブレンド。モッチリとふくよかな食感が心地良く、高品質小麦特有の大地の香りも爽快。「このスープにこの麺あり」と言うに相応しい、自家製麺の白眉だ。