地鶏・天草大王の一番だしで作られる贅沢な一杯「特上鶏白湯らぁ麺」

食券を購入し、目の前に厨房が広がるカウンターに着席。厨房では、柳瀬店主を始めとする複数のスタッフが、ピタリと息を合わせた連携プレイで、オープン初日とは思えないほど淀みなくラーメンをつくり上げています。1杯1杯のラーメンを作るスピードが速ければ、席の回転も自ずと上がります。思いのほかスムーズに行列が進んだ理由の一つが理解できました。

そして目の前に「特上鶏白湯らぁ麺」が供された瞬間から、丼から高らかに舞い上がる、リッチで華やかな香り。その香りが鼻腔にもたらす心地良さに食欲が刺激され、口をつける前から大量のアミラーゼが噴水のようにほとばしります。
たまらずスープをすすり上げると、目が醒めるほど濃密なうま味が、まるで柔らかなスポンジに沁み込みゆく水のようにじわりと味覚中枢に浸透し、口いっぱいに拡散。
このスープについて、柳瀬店主によると「ご承知のとおり、現存するほとんどのラーメン店では、清湯スープを作った後の二番だしで白湯スープを作ります。ですが『Ramen Afro Beats』では、そんなラーメン業界の常識をあえて覆し、一番だしオンリーで鶏白湯スープを作ることにしました」とのこと。
スープの主役は、九州出身の柳瀬店主がこよなく愛する熊本産の地鶏「天草大王」。これは現在、生産地である九州でも入手が極めて困難な幻の地鶏です。そんな稀少素材を、ガラ・丸鶏・モミジ、挽肉に至るまで使い倒し、かつその持ち味を活かし切る。地鶏のうま味を丸ごと液状化させたかのようなフルボディの味わいに、レンゲを持つ手が止められませんでした。

スープに用いる素材は、この『天草大王』だけではありません。
「1号店では、ほぼ鶏だけでスープを作っていますが、こちらでは、『天草大王』のほか、タマネギ・ジャガイモ・生姜・ニンニクといった香味野菜も、ふんだんに使用しています」(柳瀬店主)
改めてスープを吟味すると、たしかに香味野菜がスープのクオリティをワンランク上へと押し上げる“縁の下の力持ち”としての役割を好演していることに気付きます。
「ジャガイモを使うことで、スープに絶妙なトロミが生まれますし、生姜は地鶏スープとの相性がとりわけ良好で、適量を配することで、香りが格段に引き立ちます」(柳瀬店主)
有機白醤油を軸に昆布のうま味を添え、鰹節・煮干しでほのかな和味を溶け込ませたカエシも、『天草大王』のジューシーでコクのある味わいを一層際立たせる名バイプレイヤー。それぞれの素材の持ち味を徹底的に分析して掘り下げ、それらをひとつのカタチとして結実させることに、見事に成功しています。

白湯スープに合わせる麺も、提供するラーメンジャンルの違いをしっかり考慮し、1号店とは異なるタイプのものを採用。
「1号店でお世話になっている『三河屋製麺』さんから7種類の麺を取り寄せ、それらの中で、このスープに最もよく馴染んだものを使っています」と柳瀬店主。
ふんわり軽めのウェーブが施された卵麺は、モチモチっと顎を押し返すような力強さがあり、スープを過不足なく持ち上げます。これぞ、まさに天の配剤! このスープと出逢うために生まれたような麺であり、私の周りのお客さんも皆、我を忘れて麺をすすり上げていました。

もちろん、トッピングにも抜かりは一切ありません。スープにジャガイモを用いていることから、細切りフライドポテト、ポテトトリュフエスプーマを採用。
「フライドポテトとポテトエスプーマの原料はジャガイモですから、スープとの相性は申し分ありません。当店の鶏白湯スープは提供前にハンドブレンダーで泡立てますが、その泡にポテトエスプーマを合わせたのは、2つの泡を食べ比べる楽しさを満喫してもらいたいという気持ちからです」(柳瀬店主)
この1杯を開発するに当たり、柳瀬店主は、泡系鶏白湯の聖地・大阪へと足を運び、鶏白湯ラーメンをひたすら食べ歩いたとのこと。そんな店主が、食べ歩きの集大成として着想した「バブル・オン・バブル」というギミック。このギミックは、ポテトエスプーマが付く「特上鶏白湯らぁ麺」でしか堪能できないので、皆様もぜひ「特上」を召し上がっていただければと思います。

その他、定番トッピングであるチャーシューも2種類を用意。一方は醤油ダレで煮込み、もう一方は塩味を施すなど、こちらも緻密な仕事ぶりがキラリ。
「鶏清湯の『Break Beats』と、鶏白湯の『Afro Beats』。今後もこの2軒による二頭馬車体制で食べ手に上質な味が提供できるようなラーメングループを作っていきたいですね。もちろん、お客様に喜ばれ、愛されながら」と、抱負を語る柳瀬店主。

昨年1月にラーメン界にすい星のごとく現れ、天衣無縫な発想から紡がれる清湯ラーメンに、ラーメン好きからの強力な支持を獲得することに成功した柳瀬店主。今回、『Afro Beats』の1杯を食べ終え、真っ先に脳裏をよぎったことは、「柳瀬拓郎氏であれば、必ずや、日本のラーメンシーンに確かな足跡を刻むことができる」ということでした。
皆さんもぜひ万難を排して、このエポックメイキングな1杯を食べにお店へと足を運んでいただければと思います。
柳瀬 拓郎店主のプロフィール

・福岡県出身。カナダのレストランでフレンチ等のシェフを務め、日本へと帰国後、2022年1月、祐天寺の地に1号店である『Ramen Break Beats』を創業。
・コンソメの技法をアレンジした製法で紡ぐ清湯ラーメンが大ブレイクし、あまりもの繁盛ぶりに記帳制が導入されるまでに至る。そして今般、新宿御苑前に鶏白湯ラーメンを提供する2号店『Ramen Afro Beats』を開業。
・同店で提供する鶏白湯ラーメンのプロトタイプは、1号店において、昨年のXmas限定メニューとして提供した、1番だしで作った鶏白湯とのこと。
・目標は、現行の鶏清湯、鶏白湯に加え、煮干しラーメン、つけ麺を提供する店舗などを展開し、お店を訪れてくれるお客さんに大きな満足感を与えられるラーメングループを築き上げること。
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。