ニボラーの舌と心に突き刺さる新橋の新名物「中華そば(醤油)」

現在、同店が提供するラーメンは、「中華そば(醤油)」「中華そば(塩)」と、それらのバリエーション。券売機の左上には、画像付きで看板メニューである「肉中華そば(醤油)」のボタンが鎮座。
今回、私は初訪問だったので、基本メニューの「中華そば(醤油)」のボタンをプッシュしました。店内はカウンター席のみとなっていますが、アクリル板のパーテーションも設置されており、コロナ対策は万全です。

着席し一息ついたところでふと厨房を見れば、そこには2020年に湯島にオープンした『大衆食堂ゆしまホール』の松田氏の姿が。聞けば、ここ『和市』のオーナー・村治氏は、『ゆしまホール』のオーナーの後輩とのこと。その縁で、しばらくの間は松田氏にラーメン作りを手伝ってもらっているんだそうです。
ひとしきり松田氏とのよもやま話に花を咲かせている間に、ラーメンが完成。卓上に供されます。ラーメン作りのオペレーションは非常にスムーズで、開業したばかりとは思えないほどの手際の良さ。眼前に供された丼から舞い上がる、芳醇な煮干しの香り。その香りの艶やかさに、期せずして胃袋が臨戦態勢に。
「煮干し本来のコクをより前面へと押し出した、パンチと厚みのあるスープを目指しました」と、村治オーナーが語るとおり、煮干しの持ち味が最大限にまで引き出されたスープは、思わず丼を手に取って直飲みしたくなってしまうほど強い牽引力を誇ります。

「スープの要となる煮干しは、産地、大きさから、脂の乗り具合に至るまで、徹底的にこだわりました。様々な種類の煮干しを取り寄せて試作を重ねた結果、辿り着いたのが、今のこの味です」(オーナーの村治さん)
スープにアクセントを与える背脂の甘みも、実に上品。舌上でクロスオーバーする煮干しの滋味と背脂の甘みを、キレとコクを兼ね備えたカエシのうま味がしっかりと支え抜く構成。

どちらかと言えばコッテリ系にカテゴライズされる背脂煮干しラーメンにおいて、ここまで食べやすい一杯は稀有。これも、上述の松田氏がこのラーメンのレシピ開発・プロデュースに携わり、同氏が濃厚煮干ラーメンの名店『煮干つけ麺宮元』(蒲田)で研鑽を重ねてきたことによるところが大きいのかもしれません。粗が全く見当たらない新店離れした完成度の高さに、驚きを隠し切ることができませんでした。

このスープに合わせる麺にも、こだわりが光ります。名門『三河屋製麺』にお願いし、スープとの相性が最も良く、国産小麦の香り豊かな平打ち麺をオーダー。微かなうねりが食感にメリハリを与え、適度な太さが快適な啜り心地をもたらす逸品。スープの持ち上げも申し分なく、デフォルトで200gに及ぶ麺量も全く苦になりません。
爽やかな酸味が食欲を増進させる刻みタマネギ、磯の風味豊かな岩海苔など、スープ&麺を脇で支える布陣の仕上がりも盤石。気が付けば、ペロリと平らげてしまっていました。事前の想定以上にハイレベルだった『和市』の一杯。行列ができていない今のうちに足を運んでおくのが、得策かもしれません。
オーナー(村治氏)のプロフィール
・居酒屋を経営していたが、今般のコロナ渦で売り上げが落ち込み、「このピンチをチャンスに変えたい。ラーメンの力で食べ手に元気になってもらいたい」と一念発起。かねてからの目標のひとつであったラーメン専門店の開業を決意し、実現へとこぎつける。
・『和市』の屋号の由来は、ラーメン好きだったオーナーの祖父の名前から採ったもの。
・提供するラーメンは、オーナーの地元である新潟県のご当地麺「新潟燕三条背脂煮干」を、濃厚煮干しラーメンのノウハウを知り尽くした『ゆしまホール』の松田氏の手によってブラッシュアップさせたもの。
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。