ラーメン官僚を圧倒した「醤油らぁめん」の実力とは?

「醤油らぁめん」のビジュアルを両眼が捉えた瞬間、実食経験豊かな者であれば、たちどころに類稀なほど完成度が高いと確信できるはず。それくらい新店離れした優美な顔立ちです。中でも、特に美しいのはスープの色合い。スープの中に引き込まれるのではないか――と錯覚しそうなほど艶やかな褐色で、思わず魅了されてしまいました。

丼を眺めている内に、「純度100%」とでも言うべき鶏の芳香が、鼻腔を心地良くくすぐり、やがて体を包み込み始めます。口にする前から、期待感はMAXにまで上昇。寸分の無駄もない、芸術作品のように華麗かつ荘厳な1杯。手を付けるのがもったいない!
スープをひと口すすれば、味蕾から口いっぱいに同心円状に拡がる、複数の鶏種のうま味とコク。鶏の上質な風味を大樹の幹のように支える、醤油のフローラルな香りも、食べ手を桃源郷のごとき境地へと誘います。「淡麗醤油ラーメン」の到達点のひとつと言われる、鶏と水だけでスープを紡いだ1杯。
そのスタイルを究め尽くしたスープの味わいは、この店がオープンしたばかりの新店であることを忘れてしまいそうになるほど円熟味を帯びています。

「水は、逆浸透膜によって水分子以外の不純物を徹底的にろ過した『RO水』、鶏は、『名古屋コーチン』、『黒さつま鶏黒王』、『奥久慈シャモ』を採用しました。食べ終わりまで、体感的な味わいが軽くならないよう、カエシに用いる醤油にも徹底的にこだわっています」
との藤崎店主の言葉通り、スープが舌に触れるたびに、圧を伴いながらグイグイ迫る地鶏の羽音と、口腔内で勢い良く渦を巻くカエシの風味。終盤まで右肩上がりに増幅し続けるスープのうま味から、店主の本気がまざまざと垣間見えました。

このスープに合わせるのは、自家製麺。「少々手間は掛かりますが、自分でスープから麺に至るまでのすべてをつくりたかったので、自家製麺を採用することにしました」(藤崎店主)。
麺肌滑らかで、麺本来のコシが十二分に体感できる切り刃20番のストレート麺は、すすり上げると、麦の香が茫洋と立ち上がり宙を舞う逸品。神奈川県で一世を風靡している“神奈川淡麗系”のように、しなやかさを前面へと押し出している点も特筆に値します。
スープの引きの強さと麺のすすり心地の良さ。味そのもののクオリティの高さに、これらの要素がさらにオンされ、ほんの5分足らずで完食してしまいました。食べ終えた後、藤崎店主に今後の抱負を尋ねたところ、こんな回答が返ってきました。
「私のラーメンはいまだ完成途上です。すでにお店で提供している『醤油らぁめん』についても、カエシに用いる醤油の種類から麺に至るまで、まだ考慮すべき要素を完全に把握・理解し腑に落ちた上で作れているとは言えません。なので、今後さらにラーメンづくりの工程を解析し、お客さんに幸福感を抱いてもらえるよう、味に磨きをかけていきたいと思います」。
「実るほど頭が下がる稲穂かな」。藤崎氏ほど、この言葉が当てはまる方もなかなかいらっしゃらないでしょう。「塩らぁめん」や「つけめん」が提供された暁には、万難を排して、食べに伺いたいと思います。
藤崎みづき店主のプロフィール

・茨城県ひたちなか市の出身。『まるはグループ』、『とものもと』など、千葉県内の名店での修業を経て、今般、一国一城の主に。
・修業先である『とものもと』の市原店主のことを、ラーメンの味はもちろん、ラーメン職人としての心構えに至るまで、様々なことをご教授いただいた「師」と仰いでいる。
・自らが目指す味(目標)をしっかりと見据えた上で、その味の実現に向けたビジョンを具体的に描きながらラーメンをつくることを当面の課題として掲げる。その凄まじいまでに真摯な姿勢から、東京ラーメンシーンを支える有力な若手職人のひとりとして、ラーメン好きから大きな期待が寄せられているところ。
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。