∞(無限大)の可能性を感じさせる珠玉の「中華そば」

現在、『ふるいち』が提供するレギュラー麺メニューは「中華そば」、「塩中華そば」、「つけそば」、「塩つけそば」、「油そば」の計5種類。汁そば・つけ麺・汁なしの王道3品をしっかりと揃え、食べ手の様々なニーズに応えようとする姿勢には、素直に好感が持てます。

基本中の基本というべき一品は「中華そば」。入店してすぐ左手にある券売機の配列を見ても「中華そば」のボタンは一列目。筆頭メニューとして位置付けられている一品です。
古屋店主曰く「どこか突き抜けたところがある、癖になる味わい」を目指した「中華そば」のスープは、鶏ガラ・豚ゲンコツ・煮干し・鯖節・鰹節といった馴染みの素材に加え、牛骨から出汁を採ることで、華やかな香りと芳醇なうま味を演出。

煮干しは、上質な出汁が採れる「伊吹いりこ」のほか、数種類をバランス良くブレンド。プラスαのひと工夫を凝らすことで、圧倒的な出汁感を持たせることに成功しています。
「地域柄、最初は食べ手を選ばないオーソドックスな中華そばを提供しようと考えていましたが、一方で、修業先で学んだノウハウも活かしていきたい。色々と試行錯誤を繰り返した結果、正統派のように見えて、個性に根差した引きの強さも合わせ持つ『良いところどり』のラーメンを作ろうと思い立ったわけです」。
そんな「正統を守りながら攻める」姿勢は、トッピングにも如実に表れています。

箸で持ち上げた刹那、香ばしい香りが鼻腔を心地良くくすぐるチャーシューは、国産豚を吊るし焼きにしたもの。
飲み進めるにつれて、動物系のどっしりとしたコクに支えられながら、いりこのうま味がトルネードのように口内で渦巻き始めるスープ。スープ温の低下や味覚の慣れによって、感じ取れる味わいが刻々と変化する仕様も、もちろん、店主の計算の範疇に入っていることでしょう。

このスープに合わせているのが、プルンとした麺肌が唇に優しい『新宿だるま製麺』謹製の縮れ平打ち中太麺。含まれる水分量がやや多く、ちょっとした野暮ったさを感じさせる麺ですが、この麺を用いることで、1杯の印象がほど良く肩の力が抜けたものとなっています。
ワンポイントとして映える「の」の字が描かれたナルトも、クラシック感の演出にひと役買っています。

「作ってみたいラーメンは他にも色々ありますが、まずは、このラーメンを地元から支持される羽村の名物にしていきたいですね。次の展開は、それが実現した後に考えることにします」と言って笑う、店主。
事前の想像以上に古屋店主の「色」が出ていた1杯に、∞(無限大)の可能性を感じました。10年先、いや、20年先までチェックしていきたい1軒です。
店主(古屋氏)プロフィール

・『ムタヒロ』の牟田代表(ムタ氏)や新井氏(ヒロ氏)を、同グループの中心メンバーのひとりとして支えてきた、若手ラーメン職人の有望株。
・『中華そばムタヒロ1号店』、『鶏そばムタヒロ2号店』、『拝島駅店』の店長等を経て今般、満を持して店主の地元・羽村市に凱旋・独立。
・修業先で培ったノウハウを正統派のラーメンへと落とし込んだ「ネオクラシック中華そば」の完成を目指し、オープン後の今もなお試行錯誤の最中。
・店主の日々の取組の様子が克明につづられた、店舗ツイッターも要チェックだ。
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。