シュウマイ潤の焼売探訪。横浜中華街の老舗『安記』のシュウマイは、主役を立てる名脇役

注文率ほぼ100%の名物シュウマイ

『安記』のシュウマイは、5個入りで500円
『安記』のシュウマイは、5個入りで500円

 お店を訪れる常連らしきお客のほとんどが、シュウマイを注文します。まず、ビールや紹興酒とともにシュウマイを味わい、お腹がほどよく満たされたところで、主役の中華粥を満喫する。そんな風に料理を楽しむ光景が『安記』の店内では見かけられ、私自身、一人のお客として今でもそんな楽しみ方をしています。

 少々大きめの一個の具材は、豚肉と長ネギのみで、極めてシンプルです。ただ、その味わいは、シンプルだからこそシュウマイという料理のおいしさがストレートに味わえます。食感は固めながら、程よい噛みごたえがあり、豚肉の旨みが溢れ出します。そこに長ネギの風味が加わり、あっさりとした後味に。そしてしばらくすると、じんわりと豚肉の甘みの余韻が感じられ、もう一個食べたい、と思わせられます。

餡がぎっしりと詰まっているハード系の焼売
餡がぎっしりと詰まっているハード系の焼売

 長ネギのあっさり感も手伝い、いくつでも食べられてしまう。5個では足りずに、思わずお代わり。事実、私がこの店に連れて行った大半の人々は、シュウマイをお代わりしています

タレはシンプルに醤油とからしで
タレはシンプルに醤油とからしで

 シュウマイは、創業から基本的な作り方は変えていないそうです。作り方も、特別な技術や食材はないそう。豚肉は赤身と脂身の割合を8対2にする、玉ねぎではなく長ネギを使う、皮は薄めのものがいい、など、決して難しいことはしていません。強いて挙げれば、ぎゅっと固めすぎない力加減。しっかりとした食感だったので意外でしたが、この感覚が結果としてあの絶妙な食感をもたらしているのでしょう。それでも、特別な技術というわけではないと言います。

 声高にこだわりを主張することなく、実直に、美味しいものを作るために必要な工程を実行し続ける。ある種の職人的なものづくりの姿勢……映画やドラマの名脇役の俳優を見ているようではありませんか?

看板メニューの中華粥「三鮮粥(海鮮おかゆ)」800円
看板メニューの中華粥「三鮮粥(海鮮おかゆ)」800円

 『安記』の主役はあくまで中華粥。ちなみに中華粥は13種類あり、各種の食材の味わいを引き立たせつつも、じんわりと広がる旨みがたまりません。

 その存在を押しのけてまで主張することはせず、でもシュウマイという料理としての実直な美味しさを作り上げ、一方で主役である中華粥をより美味しく感じさせるための、絶妙な存在感を示す。

 まさに、シュウマイとはそういう「脇役力」がある料理であり、それがシュウマイという料理の価値の一つだと、私は思っています。