ぽってりでずっしり。おディーン様には日本酒がお似合い?【酒器も肴のうち】

ぽってりでずっしり。ベルギー生まれのおディーン様とご対面!

「ぽってりとしたフォルムがそうさせるのか、ガラスなのに温もりが感じられて、とても愛着があります。重量感もあって持った時の安定感もちょうどいい」。数あるお気に入りの中から骨董屋の店主、じゃなく、土居さんが選んだとっておきの酒器は、20年ほど前に購入したというヘンリー・ディーンのショットグラス。

ぽってりでずっしり。おディーン様には日本酒がお似合い?【酒器も肴のうち】

 ついつい、その場のノリでおディーン様と呼んでしまったが(すいません)、ヘンリー・ディーンといえば、古典的な吹きガラスの技法を守り、熟練の職人たちの手によって作られるベルギー生まれのブランド。土居さんがおっしゃるように、ぽってりとした風合いとずしりとした重みが特徴。インテリアショップなどでも扱われ、鮮やかな色合いのフラワーベースは花を扱うアーティストやデザイナーにも人気があるらしい。

「近年は確かに色鮮やかなガラス製品が多いようですが、この時代のものは、クリアだけどどこかくすんだような表情がいいですね。実はこれはサンプル品で、よく見ると気泡が入っていたりするんです」。規定のラインからはじかれた要素も含めてお気に入りだという。ある意味、レアである。

ぽってりでずっしり。おディーン様には日本酒がお似合い?【酒器も肴のうち】

 ところで、グラスとセットで登場したものは片口だろうか? グラスといい片口といい、そもそもベルギー製。日本酒を注ぎ、飲むものとして作られたものではない。ということは、いわゆる見立て使いというやつですね。

「ショットグラスなので、アルコール度数の強いお酒を飲むのにちょうどいいサイズなんでしょうね。冷酒にもお誂えかなと思って使っています。片口に見立てているのは本来はソースボート。花器にも使えそうな形ですけど」

 持ち主の発想ひとつでショットグラスをぐい呑に、ソースボートを片口に見立てるというのは道具遊びの真骨頂。なにかを代用するという見立ては、茶道などではよく知られるところである。余談だが、筆者がそば猪口を愛してやまないのも、そば猪口にはそうした見立て力と万能性があるからにほかならない。

「日本酒といえば徳利とお猪口のイメージが強いですが、透明なグラスに惹かれますね。漆器の受け皿を合わせたり、升を組み合わせてもっきりスタイルで酒場の趣向を楽しむこともあります」

ぽってりでずっしり。おディーン様には日本酒がお似合い?【酒器も肴のうち】
画像提供:土居さん

 楽しい、楽しすぎる。おうちで酒器遊び! 骨董屋でないことは重々承知しているが、お気に入りの酒器をせめてもうひとつだけご紹介していただけないでしょうか……。「これなんかどうかな。日本のもので、現代のものだけど」と、土居さん。な、なんですか、この軽さ! そしてこの薄さ! おディーン様とは対極にいるもう一つのお気に入りの酒器とは。こちらは【酒器も肴のうち】第4献でご紹介します。

ぽってりでずっしり。おディーン様には日本酒がお似合い?【酒器も肴のうち】
【酒器FILE 002】
愛用者:土居一隆
*口径58mm *高さ100mm *容量48cc *重量174g

●DATA

ぽってりでずっしり。おディーン様には日本酒がお似合い?【酒器も肴のうち】

「Tiny Pyxis(タイニーピクシス)」
「タイニーピクシス」とは古代ギリシャで小さな宝石箱の意味。ヨーロッパの雑貨や、アンティークというほど時を経ていないけれど味わいが楽しめる小物など”気持ちを豊かにしてくれるささやかなるもの”を届ける。
https://www.tinypyxis.com

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。