金沢で出会った金箔陶芸は、まるで結婚10年を祝福するかのように輝いてみえた。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

金沢で出会った金箔陶芸は、まるで結婚10年を祝福するかのように輝いてみえた。【酒器も肴のうち】
食楽web

 昨今の日本酒と食のペアリングは和食にとどまらない。フレンチ、イタリアン、中華、多国籍までジャンル問わず。その幅広さや進化した組み合わせは、ときに新鮮で楽しいが、それでもやっぱり酒の肴の基本みたいなものを持っている人は多い。日本酒には塩辛がなくっちゃとか、タコわさがあればとか、まずは刺身でなど聞くと妙にほっとする自分がいるのも事実だ。

『酒器も肴のうち』第43献はリアルな肴の話から始まった。「親が言うには酒呑みが好きそうな塩辛いものを好んで食べる子どもだったみたいです」。そう話すのは化粧品などの原料を扱う化学品メーカー勤務の宮前優子さん。海外出張も多く、フランス留学経験もあり、ワインに精通している。

 一方で日本酒はあまり詳しくないという宮前さんだが、学生時代に過ごした札幌に話が及び、「お酒の肴になる名産品、北海道にはたくさんありますよね」と、道産自慢の珍味ネタが次々と飛び出す。合いそう合いそう、日本酒に合いそうと、妄想一献が止まらない筆者だが、ともあれ酒器である。

「これは主人の叔父の作品です。趣味が高じて自家窯を設け、たびたび個展を開催するほどの腕前。いつだったか家族の集まりがあったときに、そういえばぐい呑を持っていなかったねと主人と話していて譲ってもらったものです。ぽってりした厚みがどこか親しみやすくて気に入っています」(宮前さん・以下同)

 寸が寸なら抹茶茶碗に見紛う佇まい。茶碗を覗き込めばお酒ではなく抹茶が入っているような錯覚に。というのも、個人的なことだが、釉が重なる表情が以前見た抹茶茶碗にとてもよく似ていたからなのだが、聞けば菓器や香合などお茶にまつわる作陶もあるという。どうりでぐい呑が抹茶茶碗に見えたわけだ。それにしても、ほんのりとした赤とブルーの組み合わせというのも夫婦使いにお誂えである。

「日本酒好きの知人に誘われて“にいがた酒の陣”というイベントに行ったときのものや、酒蔵を訪ねたときに手に入れたものなど、ノベルティのお猪口もあります。思い出や記念品と思うと捨てるに捨てられなくて(笑)」

 確かに日本酒イベントや蔵見学に行くたびにノベルティ系猪口はちょこちょこ増える。さてどうしようかとお悩みの方も多い。お酒を注ぐ以外の利用法があったらぜひ教えてほしい。閑話休題。次なる酒器を拝見する。モザイクのような金箔がとても印象的な片口とぐい呑のセットだ。

「これ、九谷焼なんですよ。華やかな色絵の九谷も好きですが、これはそのイメージからかけ離れていて珍しいと思って。昨年、金沢のひがし茶屋街を散策したときに見つけたものです。色絵装飾の九谷焼にはない個性的な作陶と、ざらっとした手触りもいいし、金箔ってところは金沢っぽいですよね。一つひとつ手づくりなので金箔のモザイクの表情が違うといって、お店の方が在庫を全部見せてくれたんです。いくつかある中からお気に入りを選べるというのも楽しかったです」

 叔父作のぐい呑とノベルティの猪口はあったものの、実は酒器を買い揃えたのはこれが初めてだという。取材の際、結婚してもうじき10年になると聞き、そのせいか、酒器の金箔に金屏風を重ねて、なんともめでたい気分になった。10年目のご夫婦の差しつ差されつの一献に彩りを添えてくれそうな酒器、いい肴になりそうだ。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。