花瓶と見紛う2合片口に始まり、悩ましいほどの酒器の数々に嬉しい悲鳴。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

花瓶と見紛う2合片口に始まり、悩ましいほどの酒器の数々に嬉しい悲鳴。【酒器も肴のうち】
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 前回に続いて高円寺「和食処 徳竹」の女将・徳竹京子さんにおつきあいいただいて『酒器も肴のうち』第38献。

 先生を招いて定期的に金継ぎ教室を開催し、女将自ら金継ぎを施した酒器の数々をお店で使い、訪れる外国人のお客さまを楽しませているというのは先週のお話。筆者においては、飯台に積み上げられた酒器の山を前に、小躍りしちゃったのも先週ご紹介した通り。

 当コラムでは注ぐ酒器ではなく、注がれる方の酒器を主に拝見している。手に収まるほどの小さき器を愛でるのがなにより好きだからに過ぎないが、ときどき気まぐれに注ぐ側も紹介する。今回は金継ぎされた酒器に見入った後、どこからどう見ても花瓶? と思しき片口が気になり、そちらについて伺うことに。

「実は自作なんです。知り合いの陶芸家の方にお声をかけいただいて主人と一緒に陶芸体験したときのものです。大きなものを作ってみようと思ってできたのがこの片口。

 出来上がりを使ってみて初めて気づいたんですが、内側の上部に目印になるような削り跡があって、お酒を注ぐとちょうど2合入ることが判明。もちろん狙ったわけじゃないですよ。奇跡的でびっくりしちゃいました。今ではそれを目安に2合片口として利用しています」(徳竹さん・以下同)

 2合徳利は見かけるが、2合片口とは面白い。と、同時に表情豊かなグリーンと豪快でおおらかな造りに圧倒される。女性の作陶とはこれっぽっちも思わなかった。見た通り、ずっしりと重みがあり、片手で持って注ぐのは少々危なっかしい。

「ぐい呑も自作。まるっこいのが私で、角ばったのが主人作。なんだか撮られるのは恥ずかしいですね(笑)」と話す横で酒器のツーショットを撮影させていただき、その後もお店の酒器コレクション拝見は続く。

 陶磁器は言うまでもなく、錫、ガラスと多種多様。このところ陶磁器ばかり見ていたせいか、ガラスがやたらとキュートに映る。お店で扱っている日本酒についても聞いてみる。

「日本酒のラインアップはマイナーな、というと失礼になってしまいますが、誰でも知っているような有名な銘柄というよりは知る人ぞ知るというものを揃えています。都内でも扱っているお店が数軒ほどという銘柄や、造り手さんが個性的で魅力的な銘柄など約10種。

 ワイン目当てに通うお客さまも多くて、実はワインの方が充実しているかも。日本酒同様、あまり知られていないハンガリー、チュニジア、クロアチア、モロッコなど新大陸のワインは豊富に揃っています」

 自家製レバーペースト磯辺巻、季節のクリームコロッケ、ビーツのサラダなど、確かな腕と目利きのご主人の遊び心溢れる和食はワインとの相性もよさそうだ。

 ワインも好きだが、それでもやっぱり日本酒でと思わせるのは、金継ぎの酒器を愛でたり、たまには可愛らしいガラスの酒器にしようかなと迷わせるほどたくさんの酒器が揃っているから。そしてそれこそが日本酒ならではのお楽しみということで、酒器偏愛の悲鳴は続くのであった。

●INFORMATION

和食処 徳竹

和食処 徳竹

旬の食材の持ち味を活かした丁寧な仕事が身上。関西だしを使い、創作に富んだ本格和食が味わえる。自然農法の畑で放し飼いで育てた烏骨鶏とアローカナの卵を使った卵かけごはんは〆に人気の一品。金継ぎ教室、料理教室をはじめ、鮨Night、うなぎNightなどのイベントも数多く開催している。

●DATA

住:東京都杉並区高円寺南4-29-2 宮下ビル4F
TEL:03-5378-7610
営:18:00~22:30(L.O.)
休:水曜

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。