好きな作家の酒器は少しずつ集めたくなるものなのです。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。『酒器も肴のうち』第53献。

好きな作家の酒器は少しずつ集めたくなるものなのです。【酒器も肴のうち】
食楽web

「有機的なフォルムとキム・へジョンさんのつくる“白”がとくに魅力的で、作品を見て一目でファンになりました」

 以前勤めていた会社でダンスやパフォーミングアーツの分野を担当するかたわら、現代美術の展覧会やイベント企画に携わっていた宮久保真紀さん。現在はコンテンポラリーダンスのフェスティバル「Dance New Air」のチーフプロデューサーとして企画運営を中心に関連事業に取り組んでいる。

 当時、出張で訪れていたソウルで、キュレーターを介して陶芸作家キム・へジョンさんと出会う。

「数年後、キムさんの個展が東京で開催され、そのときに手に入れた酒器です。

 作品の魅力もさることながら、以前仕事でご一緒したことのあるダンサー兼振付家の方とキムさんが深くつながっていると知り、より一層強い縁を感じました」

「キムさんの平べったい酒器は実際使ってみると口に触れる縁の厚みが絶妙かつ滑らか。これから少しずつ作品を集めていきたいと思っている好きな陶芸家のひとりです。

 ほかにもコレクションしたい作家さんはいますが、これはまた今度。あとは陶芸でいうと、いつか唐津の皮鯨で美味いお酒を楽しんでみたいという長年の夢があって……」

 皮鯨というのは唐津焼のぐい飲みや茶碗の口縁に鉄釉を塗った装飾の一種。見た目が鯨の背中と腹側に似てることや、一説には大酒呑みを鯨呑みと称するなど諸説あると聞くが、もしや宮久保さん、日本酒への入れ込みようが結構深いのでは?

「ほとんどの日本酒党がそうだと思いますが、和食、とくに魚系のお食事の時は迷わず日本酒を選びます。ふんわり華々しいものよりは、いかにも“ザ・酒”といったものが好みです。

 仕事でもプライベートでも、旅先の地酒とその土地の食べものとの組み合わせは必須ですね。小さな蔵のお酒を扱っているお店も随分増えたので、できるだけ初めて出会ったものを試してみるようにしています」

 思い入れのある銘柄が次々に飛び出し、酒談義が弾む。「実はまだ中学生の頃の話ですが、日本酒に限らず、お酒の銘柄は『有閑倶楽部』で覚えたといっても過言ではないです」

 漫画に暗い筆者には最初なんのことかさっぱりわからなかったが、なんでも登場人物の名前がお酒の銘柄にちなんでいるのだという。その手の話についていけず、ところどころ置いてけぼりになるも「お酒好きならぜひ」とおすすめされたので、機会があれば一度手に取ってみたいと思う。

●INFORMATION

Dance New Air 2018

国内外のダンス作品やダンスフィルム、さらにフリーで観られるショウケースなど、様々なダンスに出会えるダンスフェスティバル。スパイラルホール、草月ホール、シアター・イメージフォーラム等を会場に開催される。10月3日(水)~14日(日)。詳細は公式HPにて。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。