
●南側を瀬戸内海に面し、北部に中国山地を擁する広島県は、さまざまな山海の幸の宝庫。“日本の縮図”とも言われています。それは酒造りにおいても同様。日本三大酒処の1つである西条をはじめ、県内には個性あふれるさまざまな日本酒を醸す蔵元が点在しています。そんな中、いま最も注目を集めている酒蔵の一つをご紹介します。

訪れたのは、広島市内の北東に位置する安佐北区(旧可部町)の蔵元・旭鳳酒造。慶応元年(1865年)から酒造りを行ってきた老舗蔵元ながら、伝統を守りつつも新しい取り組みを行っています。

「周囲を里山に囲まれ、太田川と支流である根谷川が流れる可部町は水が豊富で昔から酒造りが盛んでした。現在はウチ1軒だけですが最盛期には8つの蔵元がしのぎを削っていたんですよ」と笑顔で出迎えてくれたのは、旭鳳酒造の七代目社長・濱村洋平さん。ちょうど酒造りが始まる直前ということもあり、特別に案内していただくことに。

広島の日本酒の特徴をひと言で表現すると“まろやかな旨口”。つくり手や地域によってもちろん差があるものの、軟水が多い広島県の場合、「味わいがありながらも柔らかみがある個性的な酒が多い」と濱村さん。実は濱村さん、社長に就任すると同時に、杜氏としてこれまでの酒造りの見直しに着手しました。
「以前は華やかな香りが立つフルーティーな酒が全盛だったこともあり、ウチでもそうした酵母を中心に使っていましたが、旭鳳酒造らしい酒は何だろう、と考えた時にやはり違うのかなと」

酵母は酒の風味や味わいの方向性を左右する重要な要素。そこで濱村さんが着目したのが、当時はあまり使われなくなっていた蔵独自のKB酵母。華やかな香りこそ少ないものの、米の旨みとの調和が取れ、かつ酸が後味を引き締めてほど良い余韻が続いてくれるこの酵母は濱村さんが目指す方向性と一致していたのだそう。
「KB酵母を主力に据え、食中酒としていかに料理の味を引き立てるか、また飲み飽きしないかなどを模索しました。結果、旭鳳酒造らしい個性的な酒造りができるようになったと自負しています」

一方で濱村さんは酒米にも注目し、県の代表的な酒造好適米である「八反錦」はもちろん、食用米の「中生新千本」や「春陽」を使用するなど新たな取り組みにもチャレンジしてきました。
「2014年の豪雨土砂災害で被災した地域の方と協力して棚田を再生させるなど、持続可能な農業や酒造りへの取り組みにも注力しています」
そして最後に代表的な銘柄と革新的なお酒をそれぞれ試飲させていただくことに。

旭鳳酒造の主力である「旭鳳 純米大吟醸 八反錦 中汲み生」は鼻腔をくすぐる爽やかな香りと、まろやかで芳醇な味わいが特徴で、まさに蔵の象徴ともいうべき一本。食中酒として最適な一本だと感じました。

一方の「URIN」は赤、緑ともに方向性は違うものの、花のような香りとフルーティーですっきりとした味わい。それでいて飲み干した後に心地よい余韻が残り、一度味わったら忘れることができない個性的な酒に仕上がっています。
旭鳳酒造らしい酒を追求するために、就任以来、さまざまな取り組みに注力している濱村さん。若き七代目が醸す広島の日本酒に今後も注目です。