食卓から乳製品が消える? 日本初の“有機A2ミルクヨーグルト”を発売した『カネカ』の酪農への挑戦

日本の乳製品を救う「酪農」の未来形が北海道で生まれていた!

『カネカ』はコエンザイムQ10などのサプリメントでも有名な化学メーカー。その業務には飛行機や車の部材から太陽光発電、断熱材、医療用カテーテル、薬の原料や栄養補助食品まで多岐に渡り、7000億円ほどの売り上げを誇っています。コンビニなどのカトラリーやストローなども扱っており、海水や土中で溶けてなくなる“カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet”を使って製造しています。

 そんな『カネカ』の経営ビジョンで一貫して言えるのが、「ウェルネスファースト」。今回の牧場経営の視点から言えば、「売れればいいじゃなく、国内の酪農業を盛り上げるにはどうしたらいいのか」。環境や食料、健康問題など、世の中の問題になっている部分に常に向き合った事業を展開している会社なのです。

「別海ウェルネスファーム」の牧場。1981年からの酪農業市場は離農や後継者不足などで年々減少し、約87%も減少しているのが現状。若い成り手が少なく、生乳生産量も減っている
「別海ウェルネスファーム」の牧場。1981年からの酪農業市場は離農や後継者不足などで年々減少し、約87%も減少しているのが現状。若い成り手が少なく、生乳生産量も減っている

 今回、テーマになったのがこの乳製品事業、つまり酪農への危機感。後継者や担い手不足による離農が進んだり、最近では飼料価格の高騰など、酪農業にとってはとても厳しい現状となっています。そこで『カネカ』は2018年、乳製品事業を立ち上げ、2020年には地元酪農会社「㈱別海ミルクワールド」と共同で、北海道に日本では珍しい循環型有機酪農の拠点「別海ウェルネスファーム」を開設しました。

 北海道の酪農家とともに人に優しく、牛に優しく、環境に優しい、酪農から生活者をつなぐ“プラットフォーム”のような存在を目指す「別海ウェルネスファーム」とは、どんな牧場なのでしょうか?

「別海ウェルネスファーム」が取り組む循環型有機酪農ってなに?

「今の酪農は新しいことやってる。面白いじゃん、格好いいじゃん」と思える酪農をどう作るか? これが「別海ウェルネスファーム」を立ち上げたカネカの挑戦であり、課題です。

「別海ウェルネスファーム」は東京ドームおよそ20何個分の敷地で、120頭の牛(まだまだ少ない数)を育てています。圧倒的に畑の範囲が広く、放牧で育てられた乳牛の排泄物は有機飼料を自家栽培するための堆肥として有効活用。乳牛の餌として使われます。さらに自社の太陽光発電も取り入れ、再生エネルギーも活用しているのです。

『カネカ』の太陽光発電
『カネカ』の太陽光発電

「フリーストール」の牛舎と放牧を取り入れた数少ない牧場

人懐こく、気づくと近くに寄ってくる乳牛たち
人懐こく、近くに寄ってくる乳牛たち

 牧場を訪れたところ、牧草地には伸び伸びと牧草地で草をはみ、ゆったりとくつろぐ乳牛たちがたくさんいました。そしてとても人懐こく、近寄ってきます。牛舎内に入ってみると、よくある牧場のにおいがとても少ないことに驚きました。

右:「別海ウェルネスファーム」の久多里俊輔さん。2001年(株)カネカに入社。食品研究やベルギー駐在を経て、2018年に乳製品事業で北海道へ。(株)別海ウェルネスファーム設立に従事し、現在、(株)別海ウェルネスファーム取締役を兼務。左:同牧場を支える酪農家の一人、永井●さん
右:「別海ウェルネスファーム」の久多里俊輔さん。2001年(株)カネカに入社。食品研究やベルギー駐在を経て、2018年に乳製品事業で北海道へ。(株)別海ウェルネスファーム設立に従事し、現在、(株)別海ウェルネスファーム取締役を兼務。左:同牧場を支える酪農家の一人、山本さん

「北海道庁の発表資料によると、うちのように放牧を主体にやっている牧場は全体の5~10%のみで、今でも繋ぎ飼いが主体です。フリーストール牛舎もまだ30%くらい。よく発酵した有機飼料などにより乳牛の糞の匂いが少なく、牧場内を清潔に保つ仕組みのおかげですね」。別海ウェルネスファームの設立に尽力した久多里俊輔さんは語ります。

 こちらの牧場は3名の酪農家が運営しているのですが、「彼らが牛たちと真摯に向き合ってくれるから、とても人懐こみ性格の子たちに育ってくれてるんですよ」(久多里さん)

自動搾乳機の導入で、作業の軽減化を図る

自動搾乳機
自動搾乳機

 乳牛たちは、牛舎内でもフリーに動き回れるようになっています。時折、自らある機械に入っていく様子が見受けられるのですが、これが「自動搾乳機」。乳牛が自らやってきて搾乳されるのです。搾乳は1日2回が基本で、毎日4~5時間、365日行いますが、この機器の導入で軽減されているんですね。さらに個体管理もできるので、日々の健康状態、搾乳状況なども把握することができるそうです。

自ら機械に入り、搾乳される乳牛
自ら機械に入り、搾乳される乳牛

 まさに「カネカ」のこれまでの事業展開や人材などを最大限に活用した、日本の問題への取り組みを行う一つのモデルケースとも言えるのでしょう。

 さて、こうして構想5年の歳月をかけて生まれたのが、「別海ウェルネスファーム」の生乳のみで作られた「ピュアナチュールオーガニックヨーグルト」。実際に味わってきたので、ご紹介しましょう。