サメ社会学者と一緒に魅惑のサメ料理に舌鼓!

今回はサメの魅力をより深く味わうべく、特別ゲストとしてYouTubeやSNSでサメと人との関わりについて発信しているサメ社会学者・Rickyさんを、サメ肉の宴へお招きしてみました。
料理を待つ間、Rickyさんはサメ映画をこう解説します。「ヒトは陸の生き物。サメは海の生き物。襲われないためにはどうすればいいか? 陸にあがればいい。でもそれだと終わっちゃうので、サメ映画はそこが工夫のしどころですよね。いかにサメの口に人を放り込むかを、自然にかつエキサイティングに見せるかが勝負でしょう。それができないサメ映画が、サメに陸を走らせるんです(笑)」
なるほど~! と笑っているうちに、さっそく運ばれてくるサメ料理。いかにヒトをサメに食べさせるかという話を聞きながら、サメを喰らうという、ちょっとだけ倒錯のひととき……。

映画では冒頭に、主人公は家族を伴い仕事で海底油田の採掘現場を訪れます。これが海に取り残され窮地に追い込まれる発端となるわけですが、そんな状況を料理で表現すると……? ヒタヒタの油でじっくり煮込む「アブラツノザメの油田アヒージョ」(980円)となるのです。脅威(=サメ)を煮てしまうと、ア~ラ幸せ。噛みしめるたびに、ギュッと締まった身からジュワッと出てくるうま味を含んだ脂がしみじみウマい!
ちなみにアブラツノザメは、食用とされるサメの中でも特に味のよさに定評のある種類。かまぼこなど、練製品の原料にも使われます。「サメは白身で基本的に淡白な味わいなので、こうした味の濃いメニューは本当によく合いますね」とRickyさんの箸もすすみます。サメの専門家、お墨つき!

また、インパクト絶大な料理なら、シロザメの胎児(!)を丸揚げにした「BLACK DEAMONの丸揚げ」(780円)がそれ。機会があればなるべくサメを食べているというRickyさんも「サメ胎児のまるかじりは初めて」と驚きます。一般でもサメにまるかじりされる映画は数あれど、サメの頭にかぶりつける機会はそうそうないですからね。

ビジュアルのインパクトもさることながら、サメの特徴を最も実感できるのもこの一皿の魅力でしょう。サメは「軟骨魚類」という種類の生き物で、歯を除くすべての骨が弾力のある軟骨(エイなども同類)。クセがないうえ小骨が存在しない柔らかい身は、お年寄りや子どもにも食べやすいハズ。

この丸揚げも、衣のサクッと感を通過するとアツアツの身はフワッフワ! スルリと飲みこめてしまいます。食べ慣れている人なら「サメは飲み物」なんて思っている人もいそう。サメが練り物の原料に使われているのも納得の構造。学術的なシーンでは標本を作るのが大変難しいというハードルがあるようですが、食用の場合はメリットだらけに思えます。
身の柔らかさはサメの種類によっても違うそうですが、Rickyさんによれば、生息域によって食感が変わるとか。
「今まで食べてきた印象ですと、海の底のほうに生息している種類は身がホロっとして柔らかい。このシロザメもそうですよね。比較的深度の浅いところに生息し、素早く泳ぎ回る種類のサメは身が締まっていて歯ごたえがしっかりしていることが多い」
その柔らかいシロザメに対し、“身が締まっている”チームに属するのがヨシキリザメ。メニューを開発した料理長もそれを実感したことから、口当たりをよくするためにスープ仕立てで提供されます。「ヨシキリザメのアステカスープ」(1280円)がそれです。一般にヨシキリザメは鮮魚として出回ることは少なく、フカヒレや練り製品の原料であるので、こうした食べ方ができるのはかなり珍しいと思われます。

具はさっぱりしたサメの白身ですが、ダシに青森産の「サメ節(ぶし)」が使われているのもポイント。ベースのトマトと合わさって深いコクが味わえる、絶品スープです。
このほか、トルティーヤとアオザメの肉をミルフィーユ状に重ね、チーズをたっぷりかけて焼いた「アオザメのパン・デ・カソン」(1080円)も食べやすさ抜群。取り残された採掘場で、主人公家族がかろうじて口にする缶詰食をイメージしたものです。同作を見てから食すと、説明を聞くまでもなく「あのシーンかな」という既視感が……。チーズたっぷりでビールがすすむ!

激レア食材「モウカの星」も味わえる!
さて、筆者の個人的ハイライトは、珍味好き垂涎の「モウカの星」。モウカザメの心臓です。砂肝のようなシャキッとした歯ごたえと、レバーを感じさせる風味が特徴。「モウカザメの心臓入りセビーチェ」(880円)は、うす切りにしたモウカの星をマリネにして、まわりに低温調理で加熱した白身をあしらった一皿。
「モウカの星は僕も一番好きなサメ料理です。でも頻繁には食べられないので、嬉しいですね~」と頬をほころばせながらRickyさんの解説が入ります。「モウカザメは、正しくはネズミザメという名称です。しかしネズミという名前が食用には不向きだからなのか? 食用になった時点でモウカという名前に変わります」(Rickyさん)
サメにはいろいろな名称があり、かつて「ワニ」と呼ばれていたのは『因幡の白兎』(日本神話に登場する物語)で広く知られています。神話に出てくる生き物はワニと表記されてきたものの、実はサメだと考えられているのです。ほかにもフカ、イラギ、モロなど、様々な呼び名があるのも面白いですね。

今回はどの料理からも、サメの優しい味わい、食べやすさが存分に堪能できました。ところが意外にも、かつてサメは「臭い肉」とされてきた歴史があります。
「サメの血液中に尿素が豊富に含まれるので、それが分解されるとアンモニア臭を放ちます。しかしそのおかげで、保存が効くという利点もあります。冷蔵庫のない時代でも海のない地域へ届けることができ、サメ食文化が発展しました。当時は臭みを消すために、ショウガなどを効かせて食べていたようですね」(Rickyさん)
現在は輸送システムや下処理の技術が発達したため、サメ肉のそうした負の特徴を感じる機会はほぼなくなり、こうして臭みもクセもない上品な味わいを楽しめるようになったわけです。
映画公開記念のタイアップ企画は6月30日までですが、その後も店では新たなサメ料理がメニューに並ぶ予定だとか。サメが初めてという人も、サメは久しぶりと言う人も、サメ映画が好き! という人も、きっと満足できるハズ。
●MOVIE INFO
『ブラック・デーモン 絶体絶命』全国で絶賛公開中
監督:エイドリアン・グランバーグ
配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/blackdemon/
(c)2023. Black Demon Movie, LLC. All rights reserved.
●著者プロフィール
ムシモアゼルギリコ
フリーライター。記事の執筆のほか、TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めている。昆虫食だけでなく、一般の食卓では見かけないような食材を追うのが好き。著書に『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(カンゼン)、『スーパーフード! 昆虫食最強ナビ』 (タツミムック) 。