立ち食い蕎麦マニアが“コロッケそば”に辿り着く理由とは?

老舗の立ち食いそば屋で「コロッケそば」を初実食!

「コロッケそば」380円。
「コロッケそば」380円。

 そもそもコロッケとは、最もシンプルなポテトコロッケで言えば、ジャガイモを潰し、パン粉で包んで揚げた料理だ。そしてサクサクの衣とホクホクのジャガイモの食感の対比こそが、コロッケの醍醐味といえる。ソースやキャベツなどは、同じ揚げ物であるとんかつと同じく、コロッケの長所を引き出す役割を持っている

 翻って「コロッケそば」はどうだろう? コロッケの「サクサク」「ホクホク」という長所を捨て、あろうことかスープにポチャンと浮かべている。「ぐちゃ」「べちゃ」「ドロドロ」というイメージが脳裏をよぎる。しかも、いざ入店してみたら「コロッケそば」を食べている人は皆無。ほとんどの人が「いかげそ天そば」を注文している。確かに、それは旨そうだった。いかげそがゴロゴロと入っているし、天ぷらとかけ汁の相性も良さそう。うらやましい、そっちがいい。

名物の「いかげそ天そば」400円。
名物の「いかげそ天そば」400円。

 不安は多いが、任務は遂行しなければならない。そこで「コロッケそば」と小声で注文。ちなみに、『六文そば 須田町店』は立ち食いそば屋とはいうものの、椅子がある。そこに座ろうとした瞬間、「お待ちどうさま」とコロッケそばが登場した。待っていない。いや、待つ暇がなかった。早い! 早すぎである。

 真っ黒とも言えるほど濃いつゆに、想像通りコロッケが浸かっていて、登場するや否や、みるみるうちにコロッケの衣が汁を吸い込んでいく。急げ! とばかりに、沈没しそうなコロッケを箸で救出しようと試みるも、時すでに遅し。コロッケは、つゆをたんまり吸っており、もうグダグダなのだ。つかもうとする箸の隙間からこぼれ落ちていく。もはやカリカリやサクサクの部分はない。いや、最初からあったのかどうかさえ疑わしい。

コロッケが崩れているが、つゆに油は浮かばない。
コロッケが崩れているが、つゆに油は浮かばない。

 しかし、食べ進むうちに気づき始めた。『六文そば』特有の濃い目のかけ汁と、柔らかいコロッケは実はとても相性がいい。そして、コロッケの衣から滲み出る油の量が、天ぷらほど多くないのだろう。ツユが油ぎった感じにならないのでくどくならない。そして、とうとう最後にわかってしまった。グダグダになったコロッケがたまらなくうまいということを。もう、これがなくなることが寂しくて、最初からコロッケを2つにしておくべきだった、と後悔すらしてしまったほどだ。

 濃い味のかけ汁を吸い込んだコロッケは、ただのコロッケより食感がとろとろとして、“グダコロ”ともいうべき新しい食べ物に変化を遂げ、また、ただのかけ汁も、コロッケの衣の油が溶け込んだコクのある“コロ汁”になっている。さらに茹で置きのコシがない麺との相性がバツグン。つまり、一見するとやる気のなさそうな食材たちが渾然一体となって、至極“優しい味わい”を形成しているのだ。「蕎麦は香りや喉ごし」だというが、そんなことはどうでもいいと思うくらい「コロッケそば」にはきちんとした美味しさがあった。立ち蕎麦マニアがコロッケそばを愛する理由が、少し理解できた気がした。

 ちなみに、『六文ソバ』では、各メニューにカロリーが記されていて、コロッケは80.30キロカロリー。これにそば(190グラム)の222キロカロリーが足され、「コロッケそば」は約300キロカロリーというところ。揚げ物の割にヘルシーなのだ。

 滞在時間は10分弱。店を後にする際に、「早く、安く、味は最高」「健康維持に一日一食そばうどん」という『六文そば』のキャッチコピーを発見し、老舗立ち食いそば店の“粋”を深く感じた。

(取材・文◎土原亜子)

カウンターの下に貼られている天ぷら1個のカロリー表。タンパク質の量も書かれている
カウンターの下に貼られている天ぷら1個のカロリー表。タンパク質の量も書かれている

●SHOP INFO

六文そば 須田町店 外観

店名:六文そば 須田町店

住:東京都千代田区神田須田町1-17 金井不動産方1F
TEL:03-3253-0849
営:7:00~19:00
休:土・日・祝