【調査】年越しそばにもオススメ! 福井名物「越前そば」の旨さの秘密を探りに本場の蕎麦屋と製粉工場に行ってきた

謎に包まれた蕎麦の製粉工場に潜入

福井の蕎麦に石うすは欠かせない働き手
福井の蕎麦に石うすは欠かせない働き手

 我々が向かったのは、福井市にある明治10年創業の製粉会社・株式会社カガセイフンの製粉工場。こちらの蕎麦粉は、全国各地のミシュラン星付きレストランにも愛される超実力派。6代目社長である加賀健太郎さんが工場を案内してくれました。

 ちなみに、工場と聞くとコンピュータで制御された精密機器がオートメーション的にグワングワン動いているようなイメージがあるかもしれませんが、行ってみたら全然違いました。もちろん機械も活躍してるんですが、それ以上に働いているのはズバリ「石うす」。そう、よく昔ばなしなどに出てくるあの石うすです。

37台の石うすが稼働するカガセイフンの工場
37台の石うすが稼働するカガセイフンの工場

 工場のラインに、大量の石うすが当然のような顔をしてずらりと並んでいる様子は、妙にアナログというかスチームパンク的というか、思わず目をこすりたくなります。一体どういうことなんでしょう?

「蕎麦の製粉会社は全国に約1000社あると言われていますが、95%が効率的な機械式の“電動ロール挽き”を採用しています。しかしうちを含め、福井県では石うす挽きが基本なんです」(加賀社長・以下同)

カガセイフンの6代目社長・加賀健太郎さん
カガセイフンの6代目社長・加賀健太郎さん

「まず福井県の蕎麦の独自性からお話しすると、蕎麦という作物は品種改良を重ねて強くしたり、生産効率を上げていくのが普通ですが、福井では伝統的に県全域のエリアごとの“地の蕎麦=在来種”が育てられているんです。在来種は個体差が大きく育てるのが難しいんですが、味が濃く、ナッツのような香ばしさもあります」

 蕎麦はもともと天候の変化に弱い作物で、品種改良して強くするのが一般的。しかしその分、味や香りも弱くなるんだそう。実際、かつて福井県でも品種改良を試みた時期があったものの、その貧弱な味と香りに生産者と蕎麦屋が納得せず、普及には至らなかったとか。福井県民の強烈な“そば愛”を感じますね。

左が品種改良を行った蕎麦。右が福井の在来種。在来種のほうが大きさも色合いも一定ではなくバラツキがあるが、風味が強く味も濃い
左が品種改良を行った蕎麦。右が福井の在来種。在来種のほうが大きさも色合いも一定ではなくバラツキがあるが、風味が強く味も濃い

 在来種が美味しいのはわかりました。でも令和のこの時代に、なぜわざわざ石うすで挽くんでしょうか?

「現在、うちでは37台の石うすが稼働しています。先述の機械式のロール製粉に比べ、生産量は約1/100。効率はめちゃくちゃ悪いです。でも、もちろんメリットはあって、高速で挽く機械式だと蕎麦に熱が伝わって風味が落ちますが、石うすならそばの繊維を壊さないので、その心配もありません」

 しかも、石うすは1台ずつ個性があると加賀さんは言います。

「石うすの大きさや回転速度、目立て(面に刻まれた溝)の具合、さらには気温や湿度によっても状態が変わります。だからその日、どの石うすを使って挽くか見極めます。在来種の個性に合った石うすを選び、挽き方も微妙に変えていく。手間はかかりますが、これが在来種の良さを最大限に引き出す方法なんです」

石うすのサイズや回転速度によって、できる蕎麦粉の個性も変わってくる
石うすのサイズや回転速度によって、できる蕎麦粉の個性も変わってくる

 ちなみに、これらの石うすは、すべて福井県の美山地区の山でとれる、通称・小和清水石(こわしょうずいし)という石材で作られているとのこと。粒度が均一で細かく、重量もあるため、玄そばを挽くのに適した石なのだそう。

「採石したばかりの石材は水分を含んでおり、使っているうちに歪みが出てくるので、そのまま石うすに加工することはできません。なので、まず20~30年寝かせて石材の水分を出し切ってから石うすに整形していきます。だからうちには200年ものの石うすもあります。そして石うすの溝を彫り直す“目立て”も、定期的に私が行っています」

 加賀さんはさらりと言ってのけますが、石を寝かせるだけで20~30年って…効率重視の現代のスピードからすると、想像を絶する手間と時間のかけ方をしているのがわかると思います。工場に並ぶ37台の石うすたちは、ある意味、とんでもないベテラン職人とも言えるわけです。

 ちなみに、カガセイフンさんでは、蕎麦用だけでなく、ガレットやお菓子用、料理用の粉も作っています。オンラインショップ(https://soba-sueyoshi.co.jp/)では、業務用はもちろん、さまざまな種類の蕎麦粉を500g~売っているので、個人で料理に使ったり、そば打ちに挑戦したい人も利用できます。もちろん、乾麺も販売されているので、年越しそばにも◎。

まとめ

200年前から伝わる石うすで紡がれる蕎麦粉(食楽web)
200年前から伝わる石うすで紡がれる蕎麦粉(食楽web)

 そんなわけで、福井の蕎麦は、その美味しさは言うに及ばず、蕎麦の栽培から製粉までのこだわり具合も尋常ではありませんでした。興味のある人は、ぜひ年越しそばにお取り寄せしてみてください。びっくりするほど美味しいですよ。