“ピルスナー”の故郷・チェコ共和国の「ピルスナーウルケル醸造所」に行ってきた!

ピルスナーウルケルが支持を集める理由

内部の見学だけでなく、レストランやショップなども併設されているので観光客も多く、訪れやすい
内部の見学だけでなく、レストランやショップなども併設されているので観光客も多く、訪れやすい

 プラハ空港から車で1時間強、農村地帯を抜けると辿り着くピルゼン(ピルゼンはドイツ語読みでチェコ語だとプルゼニ)の街。プラハ、ブルノ、オストラパに次ぐ第四の街とされ、歴史的地区であるボヘミア地方の西部に位置します。

 他の街同様に、旧市街には教会を中心とした美しい街並みが広がるものの、プラハなどに比べると観光客も少なく、落ち着いて散策を楽しめるのが魅力。そんなピルゼンの街に居を構えるのが「ピルスナーウルケル醸造所」です。

醸造所内は見学可能で、地下の貯蔵庫では樽から無濾過のビールを注いで試飲することもできる
醸造所内は見学可能で、地下の貯蔵庫では樽から無濾過のビールを注いで試飲することもできる

 現在では世界中で造られている「ピルスナー」がチェコ発祥であることは前述した通りですが、その始祖がここウルケルです。この地域では、1295年より国王から受けたビールの製造許可をもとにビールの個人醸造が盛んになり、1835年には事業としての醸造所が誕生しました。

発酵が行われる糖化槽。最新式はステンレスだが、銅の槽も現役で使われている
発酵が行われる糖化槽。最新式はステンレスだが、銅の槽も現役で使われている

 当時の醸造所は酵母を共有してビールを造っていたそうですが、味のクオリティは低く、市長が“本当に美味しくて安く楽しめるビールを造らなければならない”という想いを強め、1842年に誕生したのがウルケルというわけ。

 まずビール造りに関して議論をする中で、そのころ下面発酵の手法をとっていたドイツ風の造り方が流行していたこともあり、それを取り入れます。しかしそれだけにとどまらず、醸造する中で沈殿していく酵母の部分はタンクに入れず、黄金色をした上澄みだけを使うという手法を生み出しました。

 これこそが、今では世界の7割を占めると言われているビールがとり入れている、“ピルスナー”というスタイルの誕生です。その後、すぐに人気のブランドとしての地位を確立し、1873年には米国への輸出も開始したそうです。

現在は使われていないが、地下水を引き上げるための取水塔はシンボルとして残されている
現在は使われていないが、地下水を引き上げるための取水塔はシンボルとして残されている

 ピルスナーウルケルが、これほどまでに爆発的な人気を呼んだのは画期的な製法だけではありません。そこには、ビールの世界で良く耳にする「水」の存在が欠かせませんでした。実は醸造所の地下には、1万年前までさかのぼる氷河期時代の氷が溶けて流れ出た水があり、ビールの醸造に使われています。さらには、地下水の上に岩盤があることにより、近代化による有害物質の影響も受けていません。赤ん坊を育てる時に使っても問題ない、まさに奇跡の水が存在するわけです。

 もちろん、今使っている地下水にも1万年前の水は含まれているそうですから、何ともロマンチックです。ちなみに他の原材料に関しても創業当時から変えず、ザーツ産のホップ、モラビアの麦芽、Hタイプの酵母で作るということを守り続けています。

近代的な設備で瓶詰めをしている工程も見学可能
近代的な設備で瓶詰めをしている工程も見学可能

 ピルスナーウルケルは京都大学名誉教授でもある伏木亨氏も分析によって飲みやすさを認めています。その味は「酵素が少ない麦芽を使用」「3度繰り返す発酵」「直で当たるガス火の火入れ」「ピルスナー-H酵母」「低温熟成」という、頑ななまでに守り続ける5つの要素があって初めて成立するのです。

ピルゼンの街には観光名所も豊富

教会の鐘塔は険しい階段があるが、登ることも可能。ピルゼンの美しい街を一望できるのでオススメ
教会の鐘塔は険しい階段があるが、登ることも可能。ピルゼンの美しい街を一望できるのでオススメ

 旧市街を中心に、シンボリックな教会や各種ミュージアムなど、観光で巡ることができるスポットも多いピルゼン。ピルスナーウルケル醸造所に行った後は、名所や先進的なビアバーなどを覗いているだけで、あっという間に時間が過ぎてしまうはず。宿泊予定を立ててゆっくりと楽しみたいところです。

 多くの人々の手により伝統を守り続けたからこそ誕生したピルスナービール。今では日本でも飲める店が増えているので、一度チェコ共和国の誇るピルスナービールを味わってみてはいかがでしょうか。

(撮影◎鈴木拓也 文◎ボン島貫 コーディネート◎麻生理子 協力◎チェコ政府観光局)

●DATA

ピルスナーウルケル醸造所

住:U Prazdroje 64/7, Pilsen 301 00,Czech Republic
TEL:+420 377 062 888
営:(4月~6月)8:00~18:00、(7月~8月)~19:00、(9月)~18:00、(10月~3月)~17:00
休:なし

※本記事は『食楽』2019年秋号の内容を一部再構成したものです