ラーメン官僚が悶絶! 目黒の注目店『えーちゃん食堂』のスゴい“香り”のラーメンが旨いワケ

記憶に末長く刻まれる力強く繊細な「ラーメン」

「ラーメン」1000円。券売機の一列目は「ラーメン」「チャーシューメン」「メンマラーメン」などの汁そば系、二列目に「つけめん」や「ざるラーメン」のボタンが並びます
「ラーメン」1000円。券売機の一列目は「ラーメン」「チャーシューメン」「メンマラーメン」などの汁そば系、二列目に「つけめん」や「ざるラーメン」のボタンが並びます

 基本メニューである「ラーメン」と「つけめん」の価格設定は1000円と比較的高額ですが、3桁価格の「かけラーメン(800円)」も提供。前述の通り、営業が7時半からと早いので、朝食としてラーメンをいただく場合、「かけラーメン」程度のボリュームが適度な塩梅だと感じる方もいらっしゃるでしょう。ちなみに価格はすべて2023年10月現在のものです。

「ラーメン」、「つけめん」、「ざるラーメン」のいずれもが、甲乙付けがたい完成度を誇りますが、初訪問時に召し上がってもらいたいのは、やはり「ラーメン」です。

 注文してから「ラーメン」が提供されるまでに要する時間は5分程度。無駄な動きを徹底的に排した華麗なオペレーションに目を奪われている間に、マイラーメンが完成。恭しくカウンター上に供されました。

スープから立ち上る香りの麗しさも、並大抵のものではありません
スープから立ち上る香りの麗しさも、並大抵のものではありません

 見つめると吸い込まれそうになるほど深い褐色に染め抜かれた清湯スープ、姿形をひと目見ただけで丁寧な調理の跡が垣間見えるメンマ、脂が絶妙な塩梅で乗った国産豚のチャーシュー……。丼の全容が視界に入ると同時に、「間違いなく傑物である」との確定判断を下せました。

 スープ、麺、トッピング共に、奇をてらったところは見受けられず、容姿はオーセンティックな中華そばそのものでありながら、ひときわ目を引くのが、ラーメンを構成するスープ・メンマ・チャーシューの発色の美しさ。各々から発せられる褐色が、丼の中でグラデーションを構築し、巨大な塊となって網膜を刺激してくるのです。

スープとタレの素材。左がサバ節で左がイカの嘴のトンビ(※トンビはタレに使用されている)
スープとタレの素材。左がサバ節で左がイカの嘴のトンビ(※トンビはタレに使用されている)

「スープは、サバ節・ウルメ節・ウルメ煮干・平子等の魚介素材と、ゲンコツ・スジ肉・肉出汁等の動物系素材を重ね合わせたもの。それぞれの素材の本来の香りを100%引き出せるよう、炊き方やうま味のバランスにこだわりました。特に悪戦苦闘したのは、多岐にわたる素材のうま味を上手くバランスさせること。黄金比を探り当てるまで、かなり苦労しました」と佐藤店主。

 こうした、針の穴に糸を通すがごとき緻密な調理工程を経て完成したスープは、「サバ節と香味油の相乗効果によって、ここまで琴線に触れる艶やかな香りが表現できるのか!」と、思わず驚嘆してしまうほど芳醇で気高い香気を放っています。

 魚介素材に由来する輻輳する滋味を、動物系素材の重厚なコクが堅固な土台となって支え抜く……まさに素材の魅力をこれでもか! と言わんばかりに詰め込んだ逸品。

 すするたびに口の中で活き活きと躍動する山海の恵みの滋味と、鼻腔を通じて快楽中枢を直撃する煌びやかな香りに、ただただ感動。レンゲを持つ手が全く止められませんでした。

プリッとした食感で、スープとの相性が良い自家製麺
プリッとした食感で、スープとの相性が良い自家製麺

 このスープに合わせるのが、うどん用の製麺機を用いて作られる自家製麺。

「麺についても、スープと同様、香りのクオリティを極限まで高めるというコンセプトの下でつくりました。結果として、他のどの店でも味わえない『えーちゃん食堂』ならではの麺ができたと自負しています」(佐藤店主)

 スープを寸分の目算の狂いもなく絡め取り、雄々しく口元まで引き上げる自家製麺。香りの芳しさはもちろん、規格外のしなやかさと驚異的なコシの強さを兼ね備え、どれだけすすってもすすり飽きることがありません。

 チャーシューは、本年(2023年)3月末をもって惜しまれながら店を畳んだ、オーセンティック中華そばの名店『びぜん亭』(飯田橋)の店主に教えを請い製法を伝授してもらったという、国産豚のバラを使用したもの。

 脂身の甘みふくよかで、舌上で泡雪のようにハラリととろけるチャーシューは、甘辛い下味が肉の隅々にまで沁みわたり、際限なく食べ続けられそうなほど卓越した仕上がり。チャーシューだけを一品料理として提供しても、間違いなく人気になりそうな旨さです。白米とも非常に相性が良さそう。

 ラーメンと無我夢中に向き合っているうちに、気が付けば、丼が空っぽになっていました。

「少なくとも75歳になるまでは、ラーメン職人として生涯現役で厨房に立ち続けていたいと考えています。そのためには、地元に根付き、お客様から愛されるお店を育てていきたい」と、意気込みを語る佐藤店主。

 店主の目標が叶い『えーちゃん食堂』に輝かしい未来が訪れんことを。心からエールを送ります。