弘前と箱根、ワインと料理の師弟競演
じつは、製造本数が非常に少ない「ファットリア ダ・サスィーノ」(サスィーノのプロダクトレーベル)のワインを、弘前以外で唯一飲めるのがここ『箱根本箱』。そこで笹森シェフのワインと佐々木シェフの料理、師弟競演によるペアリングディナーが、10月14日(日)に開催されたというわけなのです。
しかも、当夜はスーパーヘルプ・サービスマンとして、サローネ・グループの名サービスマンであり、現在は「グレープ・リパブリック」の醸造家でもある藤巻一臣さんが登場。この強力なスタッフ陣のもと、イベントは華々しく幕を開けました。
まずは、紅玉・津軽・ふじなど5種のりんごの弘前版シードル「弘前アポーワイン!」で乾杯。
料理は、里山の秋の風景を想わせるアミューズから。ススキの野原を歩くような金華豚の生ハム2種。富士のくぬぎ鱒の卵、スパイス風味のマロングラッセ、米をミルクで炊いたリ・オ・レにさつま芋ペーストやピーナッツバターには山の木の実や、美しい川や沼、田園が思い浮かびます。

ゆるやかなテクスチャーの菊芋ペーストは、土っぽい香りが立ち上がります。塩水漬けで発酵させた静岡産マッシュルームをアクセントに、柔らかなフレッシュマッシュルームのスライスを散らしたこのひと皿には、「2016 サスィーノ マルヴァジア」を。
落ち着いた酸味と甘みの拮抗、厚みが料理の土ぽいニュアンスと重なり合い、個人的に、この夜最も感動の一本でした。

ネッビオーロという北イタリア・ピエモンテ州の土着品種は、やはり北の国・青森の風土に合うらしい。ということで、2皿連続、「弘前ネッビオーロ」のヴィンテージ違いでペアリング。
2016年は、鰹節を練り込んだキタッラ、ふぐの干物とみかん、小松菜を合わせたプリモピアットに。2015年は、駿河湾の天然蛤と、その出汁で炊いたリゾットに。イタリアなら肉と合わせる品種ですが、佐々木シェフは魚介の「旨み」を持ってきました。

脂ののった駿河湾のメダイと甘みを増した白菜、酸味の爽やかな自家製ヨーグルトのソースのひと皿には、「2016 モンラーシェ ササモリ」を。
塩竈で包み焼きにしたレアな仔羊は、わさびと柚子のソースで。こちらにはバルベーラ、メルローの「2016 サスィーノ ロッソ」の芳醇な味わいがピタリ。

ドルチェ、紅玉とクランブルとジャージー牛のジェラートには、白ワインをイメージした「弘前アポーワイン! ライト」で〆。



同じく強烈な存在感を放っていたのが、当夜のスーパーヘルプ・サービスマン、藤巻一臣さん(写真右)。劇場型コの字カウンター内には、料理、ワインとともに十分な役者が揃った夜だった

イベントは一夜が限りでしたが、羨ましいことに、『箱根本箱』には「ファットリア ダ・サスィーノ」のワインがオンリストされています。箱根ローカル・ガストロノミーもまた、佐々木シェフがさらに土地を識り、馴染んでいくにつれ深まっていくことでしょう。
本を読むために訪れるのか、温泉で癒されたいのか、それともディナーを目的にロマンスカーに乗るのか。選ばずとも、「箱根本箱」にはすべてあります。
できることならチェックインからチェックアウトまで、フルに滞在するのがおすすめ。東京から2時間強。なに、お弁当とビールを携えお昼過ぎに新宿を出れば、15時のチェックインにちょうどいいというワケです。
(取材・文◎井川直子)
●DATA

箱根本箱(はこね ほんばこ)
TEL:0460-83-8025
住:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
アクセス:箱根登山鉄道 ケーブルカー「中強羅駅」より徒歩4分
料金:1泊2食18,321円~(2名利用時の1名料金)
http://hakonehonbako.com