わざわざ行きたい! 幻の“富倉そば”が味わえる『はしば食堂』のこだわりがスゴい

なぜ富倉そばは幻なの?そのカギは “オヤマボクチ”

 富倉そばの特徴は、とても薄いのにコシが強くてみずみずしく、蕎麦の風味が良いこと。そしてなんといってものど越しの良さが最大の魅力です。ツルツルとした食感は、どの蕎麦とも違うことがわかります。この秘密は“つなぎ”。一般的に、蕎麦は小麦粉をつなぎとして使用しますが、富倉そばには一切小麦粉が使われていません。

 ではどうやって蕎麦をまとめているのでしょうか? 実は、キク科に属する植物“オヤマボクチ”をつなぎとして使っているのです。“オヤマボクチ”は、戦国時代に上杉謙信も活用したと言われる“鉄砲の火種”。この葉の繊維を柔らかくなるまで煮て、乾燥を繰り返すこと4回。その期間、なんと1年。そんな時間をかけても1kgからわずか数gしか取れない貴重なつなぎを使うのが富倉そばなんです。

 小麦粉を使わないので、蕎麦本来の香りを損なうことなく存分に味わえます。葉の繊維だけでつないだ蕎麦の食感はツルツルで、のど越しの良さが味わえる極上の蕎麦へと変化。そんな手間ひまをかけて作る富倉そばは文句なしに旨いのです。飯山産の蕎麦粉と貴重なつなぎオヤマボクチを使う蕎麦は、富倉ではもう2軒しか食べられなくなってしまったことも、“幻”と言われる理由のひとつ。そしてもうひとつ、この蕎麦を作る蕎麦職人の力なくしては、富倉蕎麦は語れないのです。

手間暇をかけて生み出される職人技の集大成

みずみずしい蕎麦の美しさにうっとり。薄く伸ばされた蕎麦は口当たりがよく、蕎麦の風味がよくわかる。蕎麦は並盛り800円と、大盛り1,200円の2種類
みずみずしい蕎麦の美しさにうっとり。薄く伸ばされた蕎麦は口当たりがよく、蕎麦の風味がよくわかる。蕎麦は並盛り800円と、大盛り1,200円の2種類

 手間暇をかけた蕎麦を、みよきばあちゃんは60年間打ち続けています。外もまだ暗い朝4時に仕込みを開始。2m30cmもある蕎麦打ち棒で、食感が良くなるようにと、薄く薄く1ミリ以下になるまで伸ばしていきます。その日の朝に打たれた蕎麦は、小さなみよきばあちゃんと同じくらいの大きな鍋で、信州の綺麗な水を使って茹でられます。それをすぐさま冷たい水で締めれば、キリリとした富倉そばの完成です。

お通しのお惣菜、漬物

 蕎麦が来るまでの間に出されるお惣菜は4~5品で200円。その日によって内容は変わりますが、コゴミやアサツキ、ふきのとうなど裏山で採れる旬の食材をお惣菜や漬物にして提供。素朴で優しい旬の小鉢の数々、これがまた美味!

笹寿し

5個600円
5個600円

 かつて上杉謙信が戦場へ赴く際に保存食として作らせたと言われる、富倉地区の名物の「笹寿し」は米ともち米をブレンドしたモチモチの食感。鰹節にゼンマイ、コゴミ、椎茸など山で採れる食材を入れ、強めの酢をまぶした伝統食。かなり酢が効いていて、ガツンとくる味わいです。殺菌作用の強い笹の葉で巻いているのも、保存食の名残。

 店内は田舎のおばあちゃんの家に遊びに来たような懐かしさ。このままずっと長居してしまいそうな、落ち着いた店内。一度行ったら絶対リピートしてみたくなること請け合いの蕎麦屋です。いつまでもこの味が食べられるとうれしい、そんな大切にしたい店なのです。

(文・写真◎矢巻美穂)

●SHOP INFO

はしば食堂

店名:はしば食堂

住:長野県飯山市滝ノ脇3206
TEL:0269-67-2340
アクセス:上信越道豊田飯山ICからR117、R292経由、飯山方面へ約40分。JR飯山駅よりタクシー約30分

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●著者プロフィール

矢巻美穂

国内、海外の旅行雑誌を中心に活動するカメラマン。趣味は温泉めぐりと食べ歩き。座右の銘は「美味しいものは産地で食べるに限る」。旬の美味しいものをその産地で食べることに興味津々。著書に『トレッキングとポップな街歩き ネパールへ 』『とっておき! 南台湾旅事情故事』がある。