池袋の老舗やきとん酒場『千登利』の「牛肉豆腐」がこれからの季節に最高なワケ。【吉田類が名付け親・吉田マッスグの酒場の記憶】

池袋の老舗やきとん屋『千登利』の「牛肉豆腐」がこれからの季節に最高なワケ。【吉田類が名付け親・吉田マッスグの酒場の記憶】
食楽web

 じめっとした季節がやってきて、プハーと爽やかに酒を流し込みたい。旨い酒とつまみで陰鬱な気分を晴らしたい。そんな季節だからこそ、その旨さに改めて気付かされる酒の肴があります。それが池袋の老舗やきとん酒場『千登利』の名物です。

『千登利』の暖簾をくぐると、その答えが目に飛び込んできます。カウンターの前でクツクツとたぎる鍋。でんと横たわる豆腐とともに牛肉が煮込まれていて、酒飲みはカウンターから羨望の眼差しを向けています。その視線の先にあるのが、そう名物の「牛肉豆腐」です。

※吉田マッスグとは……普段は本誌『食楽』の副編集長。酒場のカリスマ・吉田類氏が名付け親となり、酒場をめぐる時にだけ「吉田マッスグ」を名乗る。ここでは、その吉田マッスグが大衆酒場をテーマに、酒にまつわる物語を紹介していきます。

「牛肉豆腐」650円、「ビール(大瓶)」650円
「牛肉豆腐」650円、「ビール(大瓶)」650円

 冬だろうと、夏だろうと関係ありません。常連客はこの「牛肉豆腐」をアテに、ビールを流し込み、燗酒を煽り、ハイボールをやる。これが『千登利』のお決まりなのです。では、なぜ、これほどまでに「牛肉豆腐」が愛されるのでしょうか。

”映えず”とも写真に収めたくなる独特のいで立ち!

 その秘密は第一にたたずまい。見た目からしてイカしています。カウンターの目の前で煮込まれ、汁の甘いにおいを湯気に染み込ませるその姿は、眺めているだけで酒の喚起力抜群。皿によそわれた「牛肉豆腐」は、汁をたっぷり染み込ませた豆腐が一丁丸々鎮座し、その周りを牛肉が取り囲みます。“映えない”茶系一色の中に、刻みネギがたっぷりとかけられていて、その質実剛健っぷりがたまりません。特注の白の“グラタン皿”で供されるあたりも、この「牛肉豆腐」の存在感を強いものにします。

 人気の秘密は、その味付けにも当然あります。じっくりと煮込まれて、牛肉の旨味を吸った汁は、甘辛の味付けで、醤油と砂糖以外の調味料は一切使っていません。牛肉の旨みが染み出し、それを豆腐がたっぷりと吸い込む。甘辛の味だが、くどさはなく、熱々を頬張って酒を飲む瞬間が最高なのです。熱い夏に汗をかきながら辛い食べ物を食べたくなる。そんな感覚にも似た魅力がこの「牛肉豆腐」にはあるのです。

生のままをいただく「蕪」(左)450円は箸休めに。やきとんは1本160円~
生のままをいただく「蕪」(左)450円は箸休めに。やきとんは1本160円~

 池袋のロサ会館周辺という、雑多な雰囲気漂う一角で戦後から続く名店『千登利』。もちろん、もつ焼きも旨い酒場ではありますが、まずはこの「牛肉豆腐」とともにぜひ酒を楽しんでほしい。これから暑い季節にこそ、なぜか味わいたくなる、やみつきになること請け合いの逸品です。

●SHOP INFO

やきとん千登利外観

店名:やきとん千登利

住:東京都豊島区西池袋1-37-15 西形ビル 1F
営:16:30~22:30、土・日曜16:00~
休:月曜

●著者プロフィール

吉田マッスグ
『食楽』本誌副編集長を務め、日々全国のトップレストラン、生産者などを取材する傍ら、酒場めぐりをライフワークにする。『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)の番組本などをはじめ、これまでに吉田類氏とともに全国の多くの酒場を巡ってきた。吉田マッスグは、師と仰ぐ吉田類氏が名付け親。