皿ナンコツがスゴい! 浅草橋の伝説的やきとん店『西口やきとん』が愛される理由とは?【吉田類が名付け親・吉田マッスグの酒場の記憶】

皿ナンコツがスゴい! 浅草橋の伝説的やきとん店『西口やきとん』が愛される理由とは?【吉田類が名付け親・吉田マッスグの酒場の記憶】
炭火で焼かれるのは焼きとんだけではない。うなぎの肝やフランスパン、焼売まで変わり種の串も | 食楽web

 浅草橋駅から歩いて数分、左衛門通りから一本折れた路地に店を構える『西口やきとん』。界隈ではレジェンド的な立ち飲み酒場として知られており、店の口開けとともに、焼き台を囲むL字カウンターは人垣を作り、奥のテーブル席も酒飲みたちの熱気を漂わせる。一部の立ち飲み席には、まだアクリルボードが設置されつつも、その賑わい、活気は、徐々にですがかつての『西口やきとん』の姿を取り戻しつつあります。

※吉田マッスグとは……普段は本誌『食楽』の副編集長。酒場のカリスマ・吉田類氏が名付け親となり、酒場をめぐる時にだけ「吉田マッスグ」を名乗る。ここでは、その吉田マッスグが大衆酒場をテーマに、酒にまつわる物語を紹介していきます。

焼き台の周りは常連客の特等席。煙を浴びながら飲む酒の臨場感、人との距離感ががたまらない
焼き台の周りは常連客の特等席。煙を浴びながら飲む酒の臨場感、人との距離感ががたまらない

 そんな『西口やきとん』の人気の秘密といえば、安い、旨い、そして酒を飲む気にさせる雰囲気、この3点につきると言っていいでしょう。

 炭火で焼き上げる焼きとんは、1本120円。レバー、カシラ、ナンコツ、ガツ、タンといった部位が揃っていますが、どれを頼んだって間違いない旨さ。たとえば、豚の小腸にあたるシロ。鮮度がよくなければ、臭みが際立つ部位ながら、ここのシロは臭みとは無縁。絡めるタレの濃度で素材の味をごまかしている店もありますが、タレはキリッと辛口で、素材の味がしっかりと分かります。つまり、鮮度だけでない、素材に施す下処理がいかに丁寧かを物語っています。それだけで「焼きとん」酒場としての実力がわかるというものです。

(左)シロ1本120円は、丁寧にボイルしてクニュっと柔らかな食感に。(右)ガツ1本120円は醤油漬け。コリッとした独特の食感がクセになる
(左)シロ1本120円は、丁寧にボイルしてクニュっと柔らかな食感に。(右)ガツ1本120円は醤油漬け。コリッとした独特の食感がクセになる

 そんな焼きとんに合わせるのは、並、大、メガの3つサイズがある名物「レモンハイボール」。並とありますが、それでも中ジョッキでたっぷりと注がれて登場するあたり、人気店の名物だけあります。その味わいは、スッキリと辛口。甘ったるくなく、酸味がきいて、焼きとんに合わせるとこれが素晴らしい取り合わせです。

 とりわけ、「皿ナンコツ」との相性は抜群。圧力鍋で柔らか~く煮込まれたナンコツ。甘辛の味付けされた、まったりとしたナンコツの旨みを、「レモンハイボール」がスパッときってくれるのです。

『西口やきとん』を手始めに楽しむなら、焼きとん、皿ナンコツ、塩煮込み、レモンハイボールを抑え、人気立ち飲み酒場の雰囲気を楽しめれば十分でしょう。あとは好きな串を頼んでもよし、「ガツ刺し」などを挟んでもよし、酒をサワーに変えてもよし。自由に酒場の時間を楽しみましょう。

「皿ナンコツ」200円。とりあえずの逸品に最適。これを「レモンサハイボール」330円で合わせつつ、焼きとんを待つ
「皿ナンコツ」200円。とりあえずの逸品に最適。これを「レモンサハイボール」330円で合わせつつ、焼きとんを待つ

 そして、店の雰囲気も特筆すべきで点。「お客が喜ぶことは何でもする。それはつまみや酒と同じくらい大事」とはマスター。大衆酒場がゆえ、決してスマートな接客ではないものの、客との距離が近い。それでいてやたらと距離を縮めない。知らぬ客同士波長が合いそうなら、その間に入って気持ちの良い会話を紡ぐ。そんな百戦錬磨の酒場だからこそ可能にする接客術もこの店ならではのもの。どの酒飲みも気持ちよさそうに飲んでいるわけです。

焼台のまわりはこの季節にはこたえるが、汗をかき、煙を燻されながら飲む。それがまたいいのだ
焼台のまわりはこの季節にはこたえるが、汗をかき、煙を燻されながら飲む。それがまたいいのだ

 そんな人気酒場だからこそ、ちょっとした逸話も残っています。それは『西口やきとん』の名がヒント。というのは、かつて『西口やきとん』は、浅草橋駅西口を出たすぐのガード下にあったそうです。それが『西口』の由来であり、いまから15年ほど前、移転前の店の賑わいといったら凄まじいものでした。15坪ほどの店内は満席が当たり前で、溢れた客がビールケースをテーブル代わりに外で立ち飲む、なんていう光景も日常茶飯事。それが何十メートルも続いたといえば、今の場所に移った理由も、お察しいただけるのではないでしょうか。いやはや今じゃ考えられないかもしれませんが、『西口やきとん』は、浅草橋にそんな伝説を残す、古き良き酒場なのです。

●SHOP INFO

西口やきとん外観

店名:西口やきとん

住:東京都台東区浅草橋4-10-2
営:16:30~23:00LO、土曜16:30~22:00LO、日曜15:00~20:00LO
休:祝日

●著者プロフィール

吉田マッスグ
『食楽』本誌副編集長を務め、日々全国のトップレストラン、生産者などを取材する傍ら、酒場めぐりをライフワークにする。『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)の番組本などをはじめ、これまでに吉田類氏とともに全国の多くの酒場を巡ってきた。吉田マッスグは、師と仰ぐ吉田類氏が名付け親。