お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。『酒器も肴のうち』第54献。
いつかこの日が来ると思っていたが、それは意外と早く訪れた。たとえるなら顔文字でも入れて「キターーーッ!」という感覚である。
なんのことかというと筆者が大好きなアーティスト、スナフジタさんの酒器を愛用しているという方が現れたのだ。実は出し惜しみして後編にまわしたのだが、愛用者は先週もご登場いただいたコンテンポラリーダンスのフェスティバル「Dance New Air」のチーフプロデューサー宮久保真紀さん。
「スナフジタさんは、まだフジタチサトというアーティスト名の時からのファン。年1ペースで青山のスパイラルマーケットで展覧会を開催していて、そのたびにコレクションをひとつずつ増やしていくという感じで。
毎回どれにしようか悩んですぐに選べなくて、毎日何度も見に行って、どんどん売れてなくなっていく様子を見ながら、まだ売れていないものを吟味する日々で、それを楽しんでいました」
毎日会場に足を運ぶ熱量は同じファンとしても脱帽するところだが、当時の職場が同ビルだったということで納得。そして、スナフジタさんの酒器を前にしてファン同士の話はとどまることを知らず。
「なんといっても圧倒的な細かさが魅力。そしてそこから無限に妄想が楽しめるかわいらしくも不思議な動植物や人間も交えてのキャスティング! 小さなスペースに繰り広げられる宇宙のような物語が味わい深いです」
仰せの通り! 小さき器に描かれたストーリーを眺めていると知らず知らずのうちにニヤついていることが多いのだ。正直にいうと眺めている今もニヤニヤが止まらない。
「器の内側の底をのぞけば何かが描かれ、器の裏面にもやはりなにかが描かれていてその遊び心も毎回くすぐられてツボです。
お酒好きはもちろん、お酒が飲めない人も思わず手に取りたくなる酒器No.1だと思います!」と、宮久保さん。
その太鼓判感いっぱいの言葉にこれ以上ない深さで頷く。これまで「あなたの愛用の酒器を見せてください」という企画でたくさんの方の酒器を拝見する機会があった。酒器そのものももちろんだが、持ち主の酒器に対する愛着や思い入れを聞くほどに、そのエピソードを肴に間違いなく飲めると確信した。酒器も肴のうち。今回ばかりはかなりお酒が進みそうだ。おしまい。
●INFORMATION
国内外のダンス作品やダンスフィルム、さらにフリーで観られるショウケースなど、様々なダンスに出会えるダンスフェスティバル。スパイラルホール、草月ホール、シアター・イメージフォーラム等を会場に開催される。10月3日(水)~14日(日)。詳細は公式HPにて。
●著者プロフィール
取材・文/笹森ゆうみ
ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。