旨い店はタクシー運転手に訊け! 土佐っ子愛が深い背脂チャッチャ系『下頭橋ラーメン』へ

意外に多い女性ファン。その理由は?

 背脂チャッチャ、こってり味、チャーシューも分厚く、麺もたっぷり。男性ならまだしも女性は完食できるのか? という懸念があると思います。しかし、私が長きに渡り観察していると、女性のお客さんが頻繁に訪れます。しかも1人でふらっと入ってくる感じで。そしてペロリと平らげます。「ここのラーメンを食べると元気が出る」というようなことをご主人に言っているのを聞いたことがあります。それは私と全く同じ感想です。

店内はカウンターのみの7席
店内はカウンターのみの7席

 その理由は、おそらく、ご主人のラーメンへの一途なこだわりがあるからです。こちらで使用している豚肉はすべて国産の鮮度が良いもの、背脂は、“A脂(あぶら)”と呼ばれる最高級なもの。じっくり炊いた豚骨スープには、青森産ニンニク、国産のネギ、椎茸といった香味野菜のエキスも溶け出して、そこに上等な背脂が入っています。そのスープの背脂をザルに取り出して、ニンニクを潰しながらチャッチャするんです。体に良い食材しか入っていない。だから元気になるんだと思います。

注文が入ってからチャーシューを切り出します。その方が絶対美味しいとご主人は言ってました。ちなみにカエシはチャーシューの煮汁を使います
注文が入ってからチャーシューを切り出します。その方が絶対美味しいとご主人は言ってました。ちなみにカエシはチャーシューの煮汁を使います

 背脂を見せてもらったら、それは美しい脂で、ぷるっぷる。まさにコラーゲンの塊です。
 ご主人いわく、「豚の背脂を約2時間半、とろとろにとろけるまで煮出すんです。すると液体が溶け出すんですが、その液体部分は捨てて、とろとろの柔らかい背脂だけを使うんですよ」と言っていました。こうすることでスープの臭みやくどさを抑えることができるそうです。

背脂を見せていただきました。これがスープのコクを出す要。10キロの高級な背脂ですが、捨てる部分を考えると、たった50杯にも満たないそう。「札幌ラーメンだったら1,000杯分にあたるらしいですよ」と笑っていました
背脂を見せていただきました。これがスープのコクを出す要。10キロの高級な背脂ですが、捨てる部分を考えると、たった50杯にも満たないそう。「札幌ラーメンだったら1,000杯分にあたるらしいですよ」と笑っていました

 背脂チャッチャは1杯のラーメンを作るまでに4~5回繰り返します。見ていると、丼にカエシのお醤油を入れただけの段階からチャッチャが繰り返され、麺を入れてまたチャッチャ、スープを入れてまたチャッチャ。

カエシを入れただけの丼に背脂をチャッチャした状態
カエシを入れただけの丼に背脂をチャッチャした状態

「このスタイルは土佐っ子時代にやっていた方法と一緒です。当時は、チャッチャをする人、麺切りする人、スープを入れる人、給仕する人という完全分業制で、一気に16杯を作っていたんです。そうしないと行列をさばけません。いわば立ち食い16人入れ替え制だったんですよ。スープを入れる前に背脂をチャッチャすることでまず麺が脂とよく絡まり、またタレもスープもそれぞれにコクが深まります」

麺を投入した後にもチャッチャします
麺を投入した後にもチャッチャします

 さらに、ご主人が丼の中のカエシとスープをかき混ぜないで出すのも土佐っ子スタイルです。だから食べると、最初に脂とスープの甘味を感じて、食べ進むうちにカエシとスープが混ざってくるという味変も楽しいのです。

 ついつい、話が長くなりましたが、最後に1つだけ。ラーメンの味を守るというのは色々な意味で本当に大変なことです。名店だと言われた店も、多くの新店が現れ、時代とともに消えていくことも多い昨今。いつまでも続いて欲しい、そう願う貴重なお店です。ぜひ、至高の背脂チャッチャ系ラーメンを食べてみてください。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

環七 下頭橋(げどばし)ラーメン

店名:環七 下頭橋(げどばし)ラーメン

住:東京都板橋区常盤台3-10-3
TEL:03-3967-5957
営:18:00~翌4:00
休:水

●プロフィール

荒川治

東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。