金継ぎした唯一無二の酒器をじっくり味わう客は日本人ではなかった。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

金継ぎした唯一無二の酒器をじっくり味わう客は日本人ではなかった。【酒器も肴のうち】
食楽web

 一月往ぬる二月逃げるとはよく言ったもので今年も2ヶ月があっという間。今年はご縁がなくて立春朝搾りにありつけなかった。立春朝搾りとは立春の朝に搾り上がった春のはじまりを寿ぐめでたいお酒のこと。悔やんでいても始まらないので、かの名曲に乗せて「ああ、日本のどこかに私を待ってる酒がある」と口ずさみながら『酒器も肴のうち』第37献。

 今回お邪魔したのは中央区新川で20年ほど営み、昨夏、古着屋や古道具店が点在する高円寺南口に移転した「和食処 徳竹」。さっそく、女将の徳竹京子さんが酒肴の盛り合わせと言わんばかりの飯台を抱えて登場です。ここでいう酒肴とは酒器そのもののこと、あしからず。久しぶりに見る選べる酒器の山。いい景色であります。

「新川の頃から大事に使っているものばかりです。作家ものも多いですが、口造りが薄いものや陶芸家の方によっては使っている土が柔らかいものもあり、どうしても欠けやすい。丁寧に扱っていても割れるときは割れちゃいます(笑)。数年ほど前、ご縁があって金継ぎの先生をご紹介いただいて、それからは金継ぎを施して使っています」(徳竹さん・以下同)

 それはそうと、飯台から出てくるわ出てくるわ、金継ぎされたぐい呑が! これはこれで見ていて楽しい。そもそも金継ぎとはざっくり言うと器の割れや欠け、ヒビなどの破損部分を修復する技法。金継ぎに芸術的価値を見出したり、もったいない精神の末のリメイクだったり、愛着あるモノを大事にする気持ちだったりと、その解釈はさまざま。個人的にはお酒の場ならば、使う人が楽しければそれでいいと思っている。(えっ? そう思いませんか?)

「金継ぎを始めてからめっきり酒器を買わなくなったかも。作家さんの一点ものは買い替えがきかないですし、金継ぎすることで正真正銘の唯一無二のものという気がしますよね。ますます愛着がわいて味わい深いです。

 今は定期的に先生を招いてお店で金継ぎ教室を行っています。金継ぎと聞くと難しそうと構える方もいますが、お遊びの延長と思えば気軽に楽しめると思いますよ」

 お店には外国人のお客さまも訪れる。金継ぎした酒器や料理皿に興味を持つのは圧倒的に外国人だという。日本人はむしろ気づかない人の方が多いとか。

「外国人の金継ぎファンは本当に多いです。どうしても欲しい。どこで買えるのか教えてと聞かれることもよくあります。金継ぎだけじゃなく器全体に興味をお持ちの方が多くて、とても熱心。料理と器を一緒に楽しんで味わっていただいているようで嬉しいです」

 今でこそ金継ぎされた酒器に出会うと「おっ!」と、当たりくじを引いたような嬉しい気持ちになる筆者だが、まだ金継ぎのなんたるかを知らなかった頃は、継いだ跡がロックバンド筋肉少女帯のボーカル・大槻ケンヂ氏のメイクと重なり、ぽか~んと眺めているに過ぎなかった。なにを隠そう、今でもその連想癖は抜けない。継ぎ方にもよるのだけれど。つづく。

●INFORMATION

和食処 徳竹 外観

和食処 徳竹

魚は築地一の目利きを誇る仲買から仕入れ、旬の食材の持ち味を活かした丁寧な仕事が身上。関西だしを使い、創作に富んだ本格和食が味わえる。新川から高円寺に移転しても、以前からのファンが熱心に通う。金継ぎ教室、料理教室をはじめ、鮨Night、うなぎNightなどのイベントも数多く開催している。

●DATA

住:東京都杉並区高円寺南4-29-2 宮下ビル4F
TEL:03-5378-7610
営:18:00~22:30(L.O.)
休:水曜

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。