思わず燗酒を頼まずにはいられないチロリと出会ってしまったのです。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

思わず燗酒を頼まずにはいられないチロリと出会ってしまったのです。【酒器も肴のうち】
食楽web

『酒器も肴のうち』第34献。お邪魔したのは新橋「酒と肴 ひらの」。季節柄、燗酒の話題になる。店主の瀬川大地さんがカウンター奥の棚からチロリを取り出して見せてくれた。レトロな風合いがとてもいい。

 チロリなどは、徳利や片口のように鑑賞したり愛でたりするようなものではなく、燗をつける単なる道具にすぎないと思っていたら、このチロリは違っていました。すいません。チロリ、ごめん。チロリ、ソーリー。「いいでしょ、コレ」と、瀬川さん、少々自慢げ。

「蓋付きのチロリ、なかなか気に入ったのが見つからなくて、ようやく出会えたって感じです。模様の境界線までお酒を入れてちょうど1合。注ぎ口まで少し余裕があるので注ぎやすい。業務用に多い、容量ギリギリのチロリと違って燗をつけるのも勝手がいいです」(瀬川さん・以下同)

 筆者が知るチロリはいわゆる色気のない業務用顔したもの。筆者が知らなかっただけで、細工が施されたチロリが存在していたのである。チロリに気を取られて話が進まない。いかんいかん。ところで燗酒はどのぐい呑で?

「白磁のぐい呑です。もともと日本酒好きの友人から誕生日プレゼントとしてもらったのが最初。とても気に入っているので家でもよく使っていました。お店を始めることになったのを機に数を取り揃えたんです。岐阜にある老舗窯元の一献盃シリーズのひとつです」

 つぼみのようなフォルム。違和感のない持ちやすさ。口径が小さいのでチビチビとお酒が口の中に流れ、傾けたとき鼻に近いため香りを感じやすい。シンプルで端正な白磁の清楚さがカウンターの木目に映える。筆者得意の妄想晩酌を楽しんでいると、瀬川さんが別な酒器を見せてくれた。それはどう見ても焼酎におあつらえ向きの陶器グラスだ。

「香酒盃というシリーズの酒器で、まさに焼酎の「香り」を楽しむために作られたものらしいです。普通に焼酎を提供するときに使います。それから、この香酒盃で日本酒を出すこともあります」

 こちらの香酒盃。有田焼の窯元と焼酎メーカーとの共同開発だという。このグラスでどのように日本酒を提供するのだろうか。冷酒にしろ、燗酒にしろ、ただ注いで出すとなると湯呑み状態でピンとこない。想像もつかないのだが、この続きはまた来週。

●DATA

「酒と肴 ひらの」

住:東京都港区新橋3-13-7
TEL:03-3435-8630
営:17:00~24:00(食事のみ23:00L.O.)
休:日・祝日
Facebook >> https://www.facebook.com/shimbashihirano/

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。