アシスタント時代を思い出すぐい呑1/3。そして、終わりなき宴会のこと。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるのが、あの人のお気に入りやコレクション。あのお店のセレクションも見てみたくなる。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

アシスタント時代のぐい呑と宴会の思い出。【酒器も肴のうち】
食楽web

 気づけば行く先々の飲食店や酒販店では秋あがりやひやおろしがお目見え。寒造りの酒が貯蔵され、夏を越して丸みを帯び、ほどよく熟成し、続々と出荷されつつある。さあさあ、みなさんお待ちかね。飲み頃ですよと言わんばかりでいささか焦りながらの「酒器も肴のうち」第14献。

 今回ご登場いただいたのは、昨年、陶芸の里を巡る取材に同行し、名だたる窯元の陶芸家たちをカメラに収めたフォトグラファー・冨田望さん。仕事とはいえ、いいなあ、陶芸の里巡り。どこ行ったんすか、何か買ったんすかなど、ぐいぐい前のめりになりながら撮影現場の話から愛用の酒器の話まで聞き込みました。

撮影:冨田望
撮影:冨田望

「九州は大分の小鹿田焼や福岡の小石原焼、佐賀は有田、唐津などをまわりました。それから、民藝のうつわやクラフトワークで注目されている鳥取、島根の人気窯元も訪ねることができました。

撮影:冨田望
撮影:冨田望

 家族で営む窯元も多く、ご夫婦や師弟関係にある父と息子さんや母と息子さんといったツーショットのポートレートを残せたのはいい思い出ですね」

撮影:冨田望
撮影:冨田望

 鳥取、島根と聞けば、バーナード・リーチ、河井寛次郎、柳宗理、エッグベーカー、スリップウェア…と、民藝ワードが次々飛び出す陶器ファンも多いだろう。筆者もモダンなスリップウェアの角皿を愛用しているし、九州といえば小鹿田焼の飛び鉋のはりねずみみたいな表情も好きで、15年以上前に買った大皿は今でも食卓で頻度の高い一枚だ。前者は恵比寿で、後者は鎌倉で買い求めた。おっと、早々に脱線注意報の酒器トーク。本題にいかねば。

修行中の息子さんと共通していた自分の存在。

 さて、目の前には緑釉のぐい呑、ミニボウル、洗練されたシャープなカップと、それぞれタイプの異なる3種。今度こそ本題、酒器トーク。

「緑釉のぐい呑はもう20年も前ですが、撮影のアシスタントとして九州の窯元に同行したときに入手したもの。陶芸家のお父さんのもとで修行中だった息子さんの作品です。

 撮影の後は決まって窯元で働くみなさんと宴会になるんですが、当時まだ見習いだった息子さんと、アシスタントだった自分との立場というか存在が似ていて意気投合して。そのときに釉薬も形状も微妙に異なるぐい呑を3個セットで買いましたが、ふたつ割ってしまって今はこの一個だけ」

 若かりし頃のなんともいいお話。あいにく残ったのはこの一個でも、きっとその息子さんも今は一人前の陶芸家として活躍しているのかもしれない。もう、3個セットでなんて買えない人気作家さんになっていたりして。

「実はどこの窯元だったかまでは覚えていなくて(苦笑)。ただ、雲海が見える山あいにあったのは記憶にあります。

 あと覚えていることといえば、窯元のみなさんの宴会での飲みっぷりが豪快だったことですね。返杯が繰り返されるという終わりなき恐ろしい飲み会で、アシスタントなのに二日酔いになってヤバかったという思い出があります(笑)。

 結果、いろんな意味で一番思い入れのあるぐい呑ですね。三角っぽい形なのも手にフィットして持ちやすいし、作為的なものかそうじゃないのかわかりませんが斜めに入ったキズも味わい深いです」

 アシスタントとして同行した九州の陶芸の里。のちにフリーランスとして活動をスタートし、時を経て再び九州の窯元へ導かれたというのもなんだか不思議なご縁。

 訪れた場所は違っても、今度ばかりは窯元を失念することなく、二日酔いになるような失敗もせず、「陶芸家のみなさんの目の輝きやものづくりに向き合う純粋でまっすぐな姿勢に心打たれ、忘れられない旅になりました」と、冨田さん。

 今回の撮影で巡った窯元では酒器ではなくお皿を数枚買い求めたそうで、酒器のおかわりとはいかなかった。あ、それより、あとふたつの酒器の話、聞き忘れていました。ごめんなさい! この話はまたいずれ。

【酒器FILE 010】愛用者:冨田望(フォトグラファー)*口径65mm *高さ50mm *容量130cc *重量104g
【酒器FILE 010】
愛用者:冨田望(フォトグラファー)
*口径65mm *高さ50mm *容量130cc *重量104g

●DATA

冨田望 プロフィール

冨田望
フォトグラファー。著名人の自然体をとらえたポートレートやミュージシャンの躍動感あるステージ撮影をはじめ、ファッション、ウエディンググラビアなど幅広いフィールドで活動する。近年はライフワークとしてハワイの日常風景や人物をフォトストック中。昨年末に発行された『日々のうつわ』(双葉社)では、九州、島根、鳥取、益子の窯元取材に密着し、陶芸家の作陶現場を撮影。
https://www.nozomutomita.com

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。