ラーメン官僚が大絶賛する伝説の間借りラーメン店『だしと麺 遊泳』の麺とスープがウマい理由

規格外の麺を見事にまとめ上げる絶品の「油そば」と「だしそば」

左が「油そば」1100円。右が「だしそば」1100円
左が「油そば」950円。右が「だしそば(中太麺)」1000円

 さて、券売機で食券を購入し、カウンター席に着席。「お客さんにゆったりと寛いでいただけるよう、席と席の間隔や、客席の後ろの通路を広めにとりました」という店内は、瀟洒な雰囲気。無駄がなく落ち着いた岸本店主のオペレーションに見惚れている内に、注文の品が卓上に供されました。

「だしそば」
「だしそば」

「だしそば」は、優美なきつね色のスープから宙へと舞い上がる上質な乾物の和風味が、食べ手の五感を丼へと一点集中させる、汁麺のお手本のような構成。特に、スープの中を悠々と泳ぐ中太麺の佇まいは、まるでうどんのようです。

 岸本店主は常々、『だしと麺遊泳』を、ラーメン店ではなく「ラーメンの垣根を越えた、出汁と麺の料理屋」だと考えているそうですが、同店の「油そば」と「だしそば」は、まさに、そんな店主の考え方をそのままカタチにしたような、既存のどの麺類にも当てはまらないボーダレスな麺料理に仕上がっていました。

「ここまでオリジナリティ豊かな麺料理を創作するのには、相当な試行錯誤を要したのでは?」と、岸本店主に質問したところ、「油そばもだしそばも、マーケットインではなく、完全にプロダクトアウト的な発想でつくったので、開発にはそれほど苦労しませんでした」とのこと。

「だしそば」のスープ素材の一部
「だしそば」のスープ素材の一部

「だしそば」のスープは、魚介素材(節・煮干し・乾物)と動物系素材とを、毎日配合を変えながらジグソーパズルのようにつなぎ合わせることで、重層的な味わいを演出したものです。

 味蕾にスープの雫が触れた瞬間、アジ・サバ・イワシ等の素材のうま味が重なり一本の大きな奔流となって味覚中枢へとなだれ込み、脳内から大量のドーパミンを分泌させます。その快楽に酔いしれる間もなく、動物系素材の重厚なコクが口内を占拠し、魚介の風味と一体化。屋号と商品名に「だし」の名を冠するにふさわしいスケール感に充ちた出汁感に、期せずして感動のため息がこぼれます。

「少しでも上質な素材を手に入れるため、出汁に使う乾物の発注先を単一の問屋に絞り込まず、アジならA社、イワシならB社、節ならC社といった具合に、複数の問屋を指定するようにしています。加えて、スープに用いる素材の配合を毎日見直し、スープの炊き方や素材を引き上げるタイミングも毎日研究しています」(岸本店主)

程よく甘味のある香りにキレのあるスープが印象的
程よく甘味のある香りにキレのあるスープが印象的

 これらの素材だけで十分過ぎるほどのうま味が採取できてしまうため、「だしそば」にはカエシをほとんど使っていないそう。感服するしかありません。営業時間中、寸胴に火をかけっぱなしにして、時間の経過と共に出汁が濃縮されるようにしている点も特筆に値します。

「常連さんはそのことを分かっていらっしゃるようで、フレッシュなスープが好きな方は営業時間の前半、パンチのあるスープが好きな方は営業時間の後半に足を運んでくれていたりします」と岸本店主。食べ手の嗜好にも気を配った配慮に、『遊泳』が超人気店である理由の一端が垣間見える気がします。

「だしそば」の麺。従来のラーメンの麺に比べ食感が特徴的
「だしそば」の麺。従来のラーメンの麺に比べ食感が特徴的

 このスープに合わせる麺は、前述のとおり、中太麺は『いわい製麺』、細麺は『菅野製麺』へと特注したもの。

「麺の風味が強すぎると、スープとのバランスが悪くなったり、かん水の風味がスープに溶け出してしまったりするので、そうならないよう、苦労して調整を重ねました」。そんな試行錯誤の結果、選び抜かれた麺は、確かにスープと阿吽の呼吸を奏でる名品でした。

「油そば」。セットでスープもついてくる
「油そば」。セットでスープもついてくる

「だしそば」だけではありません。「油そば」も、確固たる哲学に基づいてつくられています。「油そば」は、およそ1.5cmもの圧倒的な幅を有する超ウルトラ極太麺が、丼の主要部分をドカンと占拠するセンセーショナルなビジュアルが、視覚的に強烈。見た目からしてモッチリとふくよかな麺は、つきたてのお餅のようです。

「油そば」のタレ
「油そば」のタレ

 油そばは、だしそばとは逆に、麺の食感や味わいを最大限堪能してもらいたく、麺をサポートするのはタレと鶏油だけというシンプルな構成にしているとのこと。「油そばは麺が主役、だしそばはスープが主役といったイメージですね」と岸本店主。

入り口を入ってすぐの場所で毎日麺を打っている
入り口を入ってすぐの場所で毎日麺を打っている

 麺は、岸本店主の言葉どおり、まさにこだわりの塊。麺に使用する粉は、国内産・外国産を問わず、強力粉・中力粉・薄力粉のすべてを縦横無尽に使いこなし、かつ、季節によって加水率を調整するなど、作成に膨大な労力を注ぎ込んでいます。

 柔らかく膨らんだ餅のようにモチモチ&しっとりとした食感が口の中を幸福感で包み込む、味覚と嗅覚だけでなく触覚も愉しませる至高の自家製麺。麺に合わせるタレも、西早稲田時代からリニューアルを加えています。

「西早稲田時代は、白出汁ベースのタレを使っていましたが、今は、高齢者が数多く居住する高円寺という土地柄に合わせ、濃口ベースでそばつゆのようなタレを使っています」(岸本店主)

うどんにも近い極太麺は食べ応え抜群
うどんにも近い極太麺は食べ応え抜群

 麺を噛み締めるたびに、麺に付着した甘辛いタレと香り高い鶏油が脳内の快楽中枢を力強く刺激。自制しなければ、瞬時に食べ切ってしまいそうになるほど、惹きの強い味わいです。

 最後に、店主に今後の抱負を尋ねると、以下の答えが返ってきました。

「引き続き、油そばとだしそばに磨きを掛けると共に、限定麺もコンスタントに提供する予定です。これからもよろしくお願いします」。店主の目標を、心から応援したいと思います。

●SHOP INFO

店名:だしと麺 遊泳

住:東京都杉並区高円寺南1-6-5 高円寺サマリヤマンション 1F
TEL:非掲載
営:17:00~20:30 ※売り切れ次第終了
休:不定休

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。