「自然栽培と麹」が決め手

自然栽培って何だ?
「シンプルなのに、なぜこんなに“ご馳走”だと思えるのでしょう?」
『麹中』のフードメニューをプロデュースしている食卓デザイナー・石橋直樹さんに素直に質問してみることにしてみた。すると、「大きなポイントは2つ。自然栽培の力強い野菜と日本人の調味料の元である“麹”にあると思います」と教えてくれた。
確かに、「発酵(85)定食」の特徴を挙げると、1)自然栽培の米や野菜などの食材を使う、2)味噌、塩麹、醤油麹など“麹”で調理する、3)食材の歯ごたえを生かす、の3つ。
「自然栽培とは、無肥料・無農薬栽培のことを指し、野生に近い形で野菜を育てることなんです。合鴨農法などはその1つ。こうして育った植物はものすごくパワフル。味がギュッと濃く、それぞれの植物が持つ食感を引き出しやすいんです」

麹は日本人を培ってきた土台
もう1つ、この定食の大事なのは“麹”。
「ご存知のように“麹”とは蒸した米や麦に麹菌を繁殖させたもの。味噌、醤油、酢、みりん、日本酒などを生み出すのに欠かせない材料、つまり日本の調味料の“母”です」

「例えば、味噌で漬けると、食材の特徴を味噌に封じ込めておける。麹・醤油麹で漬けると、麹菌の作用で、タンパク質である肉・魚貝は旨味と甘味が増すのです。麹の力、発酵の威力はすごいんです。日本人の体は発酵食で培われてきたので、きちんとした醤油・味噌・みりんなど発酵で美味しさが作られたものは、私たち日本人のDNAに刺さるんでしょうね」
つまり、この地味飯とも言える定食だが、私たちの体や舌に刻み込まれている「美味しい」と勝手に感じてしまう要素が詰まっているということなのだ。

「発酵という現象は目に見えませんが、見えるものはそもそも見えないものでできています。そしてその見えないものが大事だと思うんです。それを、見直していきたいというオーナー、スタッフ一同の想いのもと『麹中』というカフェを創ったんです」
また、食べ物だけでなく、人と人との繋がりも発酵させていきたい、と石橋さんは『麹中』全員の想いを語る。
「このカフェは、食を通し、人と人を発酵し続けられるような、そんな願いもあるんです。おかげ様でオープンして約2か月ちょっと。お客さんの食べ残しがほとんどなくて、正直、私たちも驚いています。さらに、毎日通ってくれるお客さんが増えてきて、その人たちが、また新しいお友達を連れてきてくださいます。私たちの願いが少しずつ形になってきていると感じて、嬉しいですね」
店を出ると、若い男性サラリーマン数人が通りかかり、「この店に最近通っているんだ。うまいし、体に良いと思うよ。明日行く?」と言っていた。確かに“発酵人”がこの街に増えている。真面目な食の威力はすごい。
“麹”を買って帰り、今晩のつまみでも作ろうと思ったが、よく考えると簡単にできるようでできない。今度、石橋さんに「発酵つまみ」や「なめみそ」の作り方を教えてもらう事にして、三分づきご飯と具沢山味噌汁だけは毎日実践しよう。そのくらい、舌を洗われるような定食だった。
(取材・文◎土原亜子)

●SHOP INFO
店名:発酵するカフェ 麹中
住:東京都文京区本郷2-35-10 本郷瀬川ビル1F
TEL:03-5615-8540
営:8:50~17:00 ランチタイム11:00~14:00
休:土日祝