高校生の三ツ星通信。「カツカレー」生誕100周年を記念して、老舗のハイカラなカツカレー「とん丼」を食べてきた!

とん丼はどう食べる?

 というわけでやってきたのは、新宿三丁目の伊勢丹の裏路地にある『王ろじ』。暖簾の「とんかつ」という文字はコロコロしていて豚の形のようだし、ロゴの書体も大正ロマン的。僕らはレトロな雰囲気にワクワクします。さっそく入店し、メニューを見ます。

 お目当ての「とん丼」(1,050円)にはきちんと(カツカレー)と補足があります。僕らは迷わずこれを注文。ちなみに揚げるのに12分かかると書いてあるので、その間、メニューを眺めていると、とんかつセットの他に「インディアンカレー(ビーフカレー)」(900円)というメニューを発見。さらに、「※とん丼のカレーソースはインディアンカレーと同じです」という注意書きも。つまり、とん丼のカレーソースは高級なビーフカレーなのです。

良太:大正時代、「カレー、コロッケ、ポークカツレツ」は“大正三大洋食”って呼ばれていて、庶民の憧れだったらしいよ。その中の2つを合体した「カツカレー」は、当時、相当高級料理だったんだろうね。

:でも、ここはビーフカレーとカツカレーの差額がたった150円だよ。

良太:そのお得感で「カツカレー」は、国民に親しまれてきたのかもね。

 そうこうするうちに、僕たちのところへ、漬物とお茶が運ばれてきました。福神漬や水ではないところが老舗らしさかな。しばらくして「とん丼」も登場。

受け皿にスプーンがついてきて、卓上にはお箸があります
受け皿にスプーンがついてきて、卓上にはお箸があります

「とん丼」は、丼よりも少し小ぶりの丸いボウル風の器に入っていて、カレーライスの上に真ん丸のトンカツ半身が3切れ。なんとなくおしゃれです。ところで、カツカレーを注文すると、よく残念なことがあります。

:一般的なカツカレーって、カツにカレーがかかっちゃってんじゃん。あれだと、カツを必ずカレー味で食べることになるだろ。

良太:そりゃそうだけど、それがカツカレーなんだから、別にいいじゃん。

:カツを食べたい気持ちと、カレーを食べたい気持ちって別々にあるだろ。

良太:わかるけどさ。カツカレーを食べると決めたら、その気持ちは捨てる、ってことはできないの?

:できる人もいるけど、俺はやっぱり、カレー食べたいけど、カツも食べたくて、両方を諦めきれなくて、よし、カツカレーにしようって派なんだよ。

良太:つまり、どういうことよ…?

:「とん丼」は、その優柔不断な心をよくわかって作ってくれているということだよ。だって、ほら、トンカツにはソースしかかかっていなくて、カレーは下にあるじゃん。

良太:……

 そうなんです。ここのカツカレーは、カツにカレーがかかってなくてソースだけ。だから、まず、トンカツだけを存分に楽しめるんです。

 そこで、まずトンカツを箸でつかんで一口。衣は厚めで、ザクザクとした食感。こんがり香ばしい。中の肉は豚ロースを丸めたような感じになっていて、それが柔らかくてふわふわしています。また、自家製ソースがとっても美味しくて、玉ネギやフルーツの優しい甘さにスパイスが効いています。卓上の辛子をつけて食べると、ピリリと刺激的で、最高に美味しいトンカツ!

 続いてカレーライスに集中します。とろみや色は学食のカレーに似ているけど、柔らかな感じでスパイスが効いています。辛すぎず、甘すぎず、ちょうど良くて後を引きます。

 そして、またトンカツに戻ります。こうして交互食べをしました。

 しかし、たった3切れしかないトンカツです。どうしてもカレーライスが余ってしまいました。

 カレーライスだけになると、まったりとしていて、少し飽きてきました。そこで、アクセントに卓上のソースをかけたり、途中で漬物、お茶と言った具合に食べ進むと、味に強弱が出て、楽しく完食できました。この「とん丼」は、お茶と漬物がよく合う、まさに和洋折衷感がありました。

案外、このお漬物がいいアクセントに
案外、このお漬物がいいアクセントに

 改めて思いますが、「とん丼」は、大正時代、みんなの憧れのカレーとトンカツを一緒に食べさせてあげよう、という気持ちから生まれたからこそ、文字通り「カツカレー」なのではないでしょうか。

:一般的な、カツにカレーがかかっちゃっているタイプは、今後「カレーカツライス」と明記すべきだよな。

良太:俺は、カツにカレーをたっぷりつけて食べたけど、旨かったよ。

:お客さんが食べ方を自由に選ぶことができるからこそ、「とん丼」は一般のカツカレーに比べて、永く愛され続けているんだろうな。

 ところで、このお店は大正~昭和初期に活躍した小説家・柴田錬三郎さんが通った店としても有名だそうです。見上げてみると、柴田錬三郎の直筆らしき色紙を発見。「好店三年 客をかえず、好客三年 店をかえず 柴田錬三郎」とあります。確かに、『王ろじ』は、俺たちも永く通いたくなる三つ星店でした。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

王ろじ 看板

店名:王ろじ

住:東京都新宿区3-17-21
TEL:03-3352-1037
営:11:15~14:50
  17:30~20:20
休:水