
佐賀の魅力満載で展開されるポップアップレストラン
地域の風土や歴史、文化を料理に表現し、その土地ならではの一皿を創造するロ―カルガストロノミー。食材の全国流通が発達するにともなって食材の地域性が希薄になり、また郷土料理の概念がボーダレス化する中、地域に根差しながらその土地の魅力を発信するローカルガストノミーへの注目度がますます高まっています。

「USEUM SAGA」は、佐賀県内の料理人が県内の食材と佐賀が誇る伝統工芸品である器への理解を深め、自身の技術と感性を表現する期間限定のプレミアムレストラン。美術館に飾るような人間国宝などの器で佐賀の美食を楽しめるローカルガストロノミーのスペシャルイベントとして、筋金入りのフーディからも熱い視線が注がれています。第5弾「USEUM SAGA」は2023年12月に佐賀市にて開催。2日間限定の席は即日完売となりました。

「USEUM SAGA」は、佐賀の食文化と他県の食文化を交差させることで、ローカル×ローカルが生む化学変化を狙っているのも、レストランイベントとして特異な点です。今回腕を振るったのは、佐賀市で完全予約制・コースのみのスパイス料理レストラン「カレーのアキンボ」の川岸真人シェフ。そして、沖縄県宮古島の風土や食文化を100年後に繋げる琉球ガストロノミーを提唱する元「エタデスプリ」の渡真利泰洋シェフ。佐賀×宮古島の共演がスタートしました。

コースのスタートを華やかに飾ったのは「水イカのパフェ」とロゼのシャンパーニュ。ねっとりとした旨みの水イカとシャキシャキとした佐賀県産の菊芋と爽やかなフルーツの一体感がたまらない一皿です。鮮やかな発色の器は有田焼を代表する今右衛門窯の逸品。その繊細な美が、料理の美味しさを何倍にも引き立ててくれます。

ローカルに根ざす料理人としてのプライドを胸に
川岸シェフにとって、このイベントは料理の道を歩むうえで、とても大きなチャレンジとなりました。イベントの冒頭、川岸シェフが語ってくれた言葉がそれを物語っています。
「昨年の『Kaji synergy restaurant』と『とおの屋 要』がコラボした第4回の開催では、同じ佐賀で奮闘する梶原大輔シェフと、岩手の非常に人を呼びにくい地で人気を集める佐々木要太郎シェフが、一体どんな料理を作るのかと即座に参加を決め、素晴らしい料理の数々に本当に感動しました。そして今回、まさか自分がそのオファーを受けるとは思いもよらず、あまりの大役に尻込みしましたが、思い切ってチャレンジさせていただくことにしました。
やはり宮古島というローカルの地で独創的な料理で全国からのゲストを魅了してきた渡真利シェフは、佐賀の食材で一体どんな料理を作るのか? 渡真利シェフの胸を借り、自分も大きく成長するチャンスだと捉えたのです。渡真利シェフとのコラボの中で学びつつ、自分も渡真利シェフに何らかの刺激を与えたいと頑張りました。二人の相乗効果が発揮された新しい料理をお楽しみいただけると思います」
めくるめく展開されたコース料理はデザートを含めて全12品。常識にとらわれない渡真利シェフのオキナワンフレンチと、川岸シェフの繊細なスパイス使いが絡み合う料理の数々に、各テーブルからは感嘆の声が漏れてきます。個性豊かな料理をさらに彩るのは、元「エタデスプリ」のソムリエ・新川友稀氏のペアリングドリンク。佐賀の日本酒、宮古島の泡盛、ワインはフランス、イタリア、中国からと、世界を縦横無尽に駆け巡ります。





異文化との出合いが爆発的エネルギーを生み出す

渡真利シェフは今回、佐賀の歴史や文化への理解を深め、あらためて宮古島を見つめる中で、琉球と古来の日本領土間にあるギャップについて、長年の疑問が解ける気づきがあったと話します。

「江戸時代の日本は鎖国することで独自の文化を育みました。一方、琉球は周辺国と盛んに交易することにより栄えました。有田や唐津、伊万里といった佐賀の焼き物は、なぜあそこまで洗練されて世界的な人気を集めたのか。そのルーツには朝鮮からの技術や知識をとり入れたという背景があります。異文化との出合いからは思いもよらないエネルギーが生まれる。今回、川岸さんのカレーと琉球ガストロノミーとが出合うことによって、さまざまな文化を吸収しながら発展してきた琉球らしい料理の可能性が広がることを期待しています」


琉球ガストロノミーと佐賀発スパイス料理の融合

ふたりのシェフが立つポップアップレストランでは、それぞれが作り上げる料理を交互に出してコースを組み立てるのが一般的です。しかし渡真利シェフは、それではコースとしての完成度は一定レベルまでしか高められないと、すべての料理を両シェフで合作するスタイルを提案。時にはベースの調理を渡真利シェフが担当し、川岸シェフが仕上げの味付けをする。川岸シェフがメイン素材を使えば、渡真利シェフがその付け合わせを用意するといった具合に、ふたりの技術と感性が一皿に盛り込まれました。
「メニューは時間をかけて練り上げてきましたが、直前になって渡真利シェフが『この旬の素材を生かすべきだ』とプランを白紙に戻した料理が多くあります。実は、提供時間ギリギリまで意見を出し合って試行錯誤していた料理も(笑)。でも、そのようにして生まれた一皿は結果的に非常に高い完成度に達していたと思います。渡真利シェフのクリエイティビティを妥協せずに追求する姿勢と、追い込まれた時の瞬発力には感服しました」と川岸シェフは振り返ります。

「スパイスの選び方、ヴィネガーの使い方、いろんな素材をオイル漬けする保存の技法。川岸シェフとの合作でとても新鮮な学びを得ました。伝統的な沖縄料理にはあまり見られない複雑なスパイスの風味やカレーの要素をうまく取り入れて、琉球ガストロノミーの可能性を広げていきたいと思います」と渡真利シェフ。確かな手応えを感じている両シェフの様子が印象的でした。
川岸シェフも今回の経験で大きな気づきを得たと話します。
「渡真利シェフと一緒に宮古島でも食材探しなどいろんなリサーチをさせてもらいましたが、僕にとって楽園のイメージだった宮古島は意外なことに野菜を作るには過酷な環境で、獲れる魚介も食用として魅力的なものは少ないことがわかりました。ひとたび台風が来れば、漁には何日も出られず、畑の作物は全滅してしまう。一方で佐賀は多様な美味しい魚種に恵まれ、一年中、野菜や果物にあふれているし、山菜やジビエの宝庫でもある。渡真利シェフの『佐賀には何でもある』と言うように、佐賀がいかに魅力的な食材に恵まれた土地であるかを実感するようになったのです。これからはこの恵まれた環境で料理できる喜びを噛み締めつつ、常に限界を突破しようとする渡真利シェフのスタンスを忘れずに、佐賀のポテンシャルを広げる料理を作っていきたいと思います」
芸術品と称される器の上に表現された両シェフの共創の数々。最先端ローカルガストロノミーのシーンに確かな足跡を残したことは間違いないでしょう。
●シェフプロフィール
川岸真人(カレーのアキンボ/佐賀県佐賀市)
1984年佐賀県佐賀市生まれ。佐賀県立佐賀北高校普通科芸術コース卒業。日本大学芸術学部美術学科卒業。都内の寿司屋で3年修業を積み、2010年、東京・錦糸町に「カレーのアキンボ」をオープン。2015年に佐賀へ戻り、完全予約制・コースのみのスタイルにリニューアル。週に一度は生産者を訪ね、その時々で出会った食材をベースに料理を組み立てる。「ミシュランガイド2019福岡・佐賀・長崎版」ビブグルマン獲得。「ゴ・エ・ミヨ2023」では佐賀県内7店舗の1店に選ばれる。
渡真利泰洋(開業準備中/沖縄県宮古島市)
1984年沖縄県宮古島市生まれ。20歳で上京、イタリア料理を学ぶ。その後、数店のフレンチで修業を重ね、渡仏。「Joel Robuchon」をはじめとしたパリの名店にて研鑽を積み、帰国後31歳で伊良部島にある「Restaurant Etat d’esprit(エタデスプリ)」総料理長に就任した。ジャパンタイムズキューブの日本人が選ぶ、世界の人々のための、日本のレストラン「The Japan Times Destination Restaurants 2021」の10選に選出。フランスのグルメ雑誌「ゴ・エ・ミヨ2022」で沖縄県内最高得点の15.5点獲得。2019年には次世代を担う実力派シェフとして全国15人の1人に選出。