
美食界で注目を集める佐賀県を舞台にしたポップアップイベント。
社会が大きく変化し、人のさまざまな価値観も変わりつつあるこの時代。食の世界にもある変化が起きています。それは食を愛するフーディたちが、こぞって地方を目指していること。
産地からすぐさま届く食材、その食材を知り尽くすローカル料理人、地域の伝統を受け継ぐ郷土料理……。都心にはない食体験を探しに、食通たちはどこまでも足を運ぶのです。
佐賀県も、そんなフーディたちを魅了して止まない土地のひとつ。干満の差が大きくその懐に独自の生態系を有する内海と、強い潮の流れが逞しく魚を育てる外海。木々の茂る山々にはワイルドな獣が駆け、野山を潤す適度な雨と日照が、大地のめぐみをもたらす。佐賀県には宝の山のような、素晴らしい食材が眠っています。
そしてもうひとつ、食体験の重要な役割を担う要素が佐賀県にはあります。それは器です。唐津焼、有田焼。名だたる焼き物の故郷は、どれも佐賀県。日本の陶磁器は佐賀県なしには語れぬほど、重要な土地なのです。
そんな佐賀が誇る食材と器で美食を楽しむプレミアムなレストランイベントが話題を呼んでいます。その名も「USEUM SAGA(ユージアム サガ)」。2023年2月に開催された第4回の詳細を例に、その魅力を紐解いてみましょう。

ふたりの名シェフの技が、美しき器と響き合う。

「USEUM SAGA」とは、美術館に飾られるような素晴らしい器を実際に使って、スターシェフの手により料理を楽しむ期間限定のポップアップイベント。県内で活躍する料理人と、各地で腕を振るう料理人がタッグを組み、佐賀県産食材を引き立てる特別な料理を仕立てます。
第4回を担当した料理人は、佐賀の次代を担う料理人のひとりである『Kaji synergy restaurant』オーナーシェフの梶原大輔氏と、岩手県遠野にある予約のとれないオーベルジュ『とおの屋 要』のオーナーシェフの佐々木要太郎氏。住む場所も歩んできた道も料理ジャンルも異なる二人によるコラボは、どのような化学反応を生んで、佐賀県の食材を光らせるのか。
最初の料理は、有田焼に盛られたイノシシのジャーキー、ニシユタカという地元のジャガイモ、コンソメ。素材の姿が想像できるような力強い佇まいの料理が、純白の有田焼の上で輝きます。続くのは、黒い皿に敷いた黒い海苔のソースで味わう蕪、多角形の皿の上でいまにも動き出しそうな真鯵。次々と登場する料理は、どれも主役級の存在感を放つ逸品揃い。しかしそれがコースとして構成されると、ある種の“流れ”を生んで畳み掛けるように美味しさの波が押し寄せるのです。
魚介、野菜、肉。佐賀県産食材の魅力をダイレクトに伝えるのは、地元素材を知り尽くす梶原氏の知識と技。その料理に奥行きを加えるのは発酵を得意とする佐々木氏の技術。ふたりのコラボレーションでしかなし得ない美味は、このスペシャルなポップアップイベントの醍醐味です。
さらにこの日は、ふたりのシェフと親交があるソムリエ・大越基裕氏がドリンクを担当。豊富な経験と知識、そして料理への敬意を元に、ロジカルに組み立てるペアリングは、料理をいっそう引き立てました。




美食王国として飛躍を遂げる佐賀県のこれから。

ガラスケースの中に陳列されるような人間国宝の器や美術館級の食器に触れ、使用して味わう稀有なる食体験。ふたりのスターシェフによる料理は想像を越えた美味を生み出し、その技術に応える佐賀の食材も確かな存在感を発揮しました。SNS全盛のこの時代にあって、わざわざ足を運び、体験をしなければ得られなかった感動が押し寄せました。
さらに今回のイベントは、ふたりのシェフがコラボした2日間に加え、梶原氏が3日間だけ提供するスペシャルなコースも展開。開催地である佐賀に、確かなインパクトと、これからの佐賀の美食界発展のための大きな一歩を記しました。
舞台となったのは、佐賀県西部の武雄市。1200年の歴史を誇る武雄温泉を擁し、かつ昨秋には新幹線の開通でも話題となった新旧の交錯する街。歴史を内包しつつ未来へ向けて動き出すこの街で行われた「USEUM SAGA」は、美食王国として国内外から注目を集める佐賀のこれからを象徴するように映りました。
佐賀と岩手の料理人がつながることで、新たな発見は多数生まれました。岩手の佐々木さんの食材への解釈は、佐賀の新たな魅力を気づかせてくれましたし、それが今度は地元の料理人達によって次への飛躍になることでしょう。佐々木さんもまた、このイベントを通して多くの学びを得たと言います。日本の東西の長さ、土壌や気候の違い、それらはまさにまったく違う様相の早春の佐賀だからこそ感じられたのかもしれません。器と豊かな食材、降り注ぐ陽光や海風まで、料理人がイメージを膨らませるにはもってこいの佐賀。豊かさの本質を感じさせる佐賀のポテンシャルこそ、日本が誇るべき土地の魅力にほかならないのです。