六本木&西麻布ではしご酒するならどこに行く? 人気料理家・大塚瞳さんと巡る名店3軒

不思議な店名に誘われ、あの名物社長と餃子で乾杯!

この日の乾杯は「ローズマリージントニック」880円からスタート。大塚さんのピッチが上がる
この日の乾杯は「ローズマリージントニック」880円からスタート。大塚さんのピッチが上がる

 お酒を飲む量よりはるかに食べる量が多いけれど、バーが好きだ。「おかえり、待っていたよ」と言われんばかりに遅い時間でも迎え入れてくれる、レストランとは違うあの独特な暗い空間に浸りたい。

 落ち着く明かりの中で食べるご飯が大好きで、カウンターに座って、一呼吸し、どうしようかと考える。食べてもいいし、食べなくてもいいという自由な感じと、レストラン位たくさんのメニューがあったら、この上ない。まずは何かお酒を飲みながら考えるとしよう。さて、今日の1軒目。

 端から食べる気満々で向かったのは、六本木通りから少し入った路地のビルの2階にある、『餃子de巴里』。「餃子?? 巴里?? 一体どういうこと?」。手書きの看板を見つけ少し急な脇の階段を登りながら好奇心でいっぱいになる。

「羊肉餃子フェンネルのせ」680円
「羊肉餃子フェンネルのせ」680円

 大学生だった2000年頃、東京の飲食ブームはさらに加速し、次から次へとお店が華やかに開店していった。お店自体の評判もさることながら、店のオーナーやシェフという個人も注目されるような時代の始まりだった。

 大学入学と同時に博多から上京した私は、仲間と集まって毎晩のように街に繰り出し、気になる店で食事をした。いつものメンバーや、店で出会って仲良くなった人たちと、お酒を飲みながら尽きない話をして過ごした。夜は楽しく、長く、朝が来るまでいくらでも起きて遊んでいられた。

 大人気だった飲食会社に、際コーポレーションがある。代表の中島武さんが生み出す様々なコンセプトのお店のどれもが、他にはない個性的な装飾が施され、楽しく、かっこよく、珍しいメニューも豊富で、よくお邪魔した。あれから、20年の時が経った。

「スパイシービーフカリー」1080円
「スパイシービーフカリー」1080円

『餃子de巴里』は中島さんの新作だ。扉に“餃子とカレーの店”と書いてある。扉を開けると、スパイシーな香りが食欲をそそり、目の前の赤いカウンター、なんとも言えない形をしたオブジェたち、無数のカメラ、額装されたエルメスのスカーフやフランスの昔のポスターが飾られ、魅惑的な空間が広がっていた。

 まずは、香草入りのジントニック、目当ての羊肉焼餃子を注文した。遊牧民の大草原の餃子とメニューに書かれている通り、フェンネルの香りと羊肉が口の中いっぱいに広がった。次から次に生み出される斬新なアイディアや、面白い話をしてくださり、外が荒れていることをすっかり忘れ、食欲に火がついて、気がつくと、紅油餃子、カブとジャガイモのカルボナーラ、もつ煮込み、おまけにスパイシーカレーまで注文していた。1軒目でもう締めるのか!?

「ねぇ、私が初めて中島さんに会ったの、二十歳の頃だったんだ。大勢いたから覚えていないと思うけど」
「どこでだった?」
「羽澤ガーデン」
「懐かしいね。よく行ったよ」

 ここ数年、中島さんとお会いする機会が度々あったが、最初にお会いした時の話をしたのは初めてだった。なぜそんなことを言ったのかわからないけれど、この暴風雨の夜に、少しノスタルジックな気持ちになったからだろう。先ほどからの雨と風がちょうど弱まってきた。よし、エスニックな気持ちを引きずりながら次の店へ向かおう。