ワインの未来はどうなる?第一線で活躍するワインのプロ4人に聞いた

東京をはじめ、連日満席が続く人気店では、ヴァンナチュール(自然派ワイン)や日本ワインなどのレアなワインが飛ぶように売れている。ワインの現場で活躍している人たちは、いまどんなことを想い、考えているのか。熊本、富山、京都、東京……編集部が注目する4人に「これから」を聞いてみた。

古賀択郎さん(「ワインショップ Quruto」店主)
「ナチュラルなワインのこれからを、地元熊本から発信していきます」

プロフィール…東京・幡ヶ谷でワインバー「キナッセ」を営んだ後、地元である熊本に戻り、2016年9月「ワインショップQuruto」をオープン

(右画像)右は初リリースのオリジナルワイン。飲食店限定で600本のみ。左はオープン記念で造った瓶内二次発酵のペティアン。

(右画像)右は初リリースのオリジナルワイン。飲食店限定で600本のみ。左はオープン記念で造った瓶内二次発酵のペティアン。共に販売は終了 | 食楽web

パッションのある酒屋があれば
街は変わっていく

 2016年9月、熊本に「ワインショップ Quruto」がオープンした。店主は東京・幡ヶ谷でワインバー「キナッセ」を営んでいた古賀択郎さんだ。

「準備期間として3年半くらいを費やした移住なので、いきなり帰ったわけではないんですよ」

 店の前で迎えてくれた古賀さんは、ゆっくり穏やかに話し始めた。もともと地元熊本に帰ってワインの仕事をしたいという思いを抱いていた古賀さん。しかしどうしてワインバーではなく酒屋に?

「僕が扱っているヴァンナチュールは、熊本で飲める場所がほとんどなかったんです。それで2013年の2月頃からまずはヴァンナチュールを飲んでもらえる『満月ワインバー』を始めました」。

 東京の店を閉めて月に一度熊本へと通ったが、しかしそれだけでは広がっていかなかった。

「このワインすごくいい! どこで買えるの? となっても、熊本では買えませんというしかなくて、それで終わってしまうんです」

 飲める店が少ないという以前に、まずはきちんとしたワインショップがなければダメだと痛感したという。

「考えてみると、ヴァンナチュールが根付いている街には必ずパッションのある酒屋があるんですよね。例えば大阪にはフジマルさんがいて、京都にはエーテルヴァインさんがいてとか。酒屋ありきで街は少しずつ変わっていくことに気付いたんです。もし自分が戻ることで、そういう役割を担えるのなら役に立てるかなと……」

店に並ぶのは時代をリードする造り手の、日本を含む世界各地のワイン。「できるだけ東京と温度差がないように」という古賀さん

店に並ぶのは時代をリードする造り手の、日本を含む世界各地のワイン。「できるだけ東京と温度差がないように」という古賀さん

地元にあるワイナリーと
一緒に造っていきたい

 そんな古賀さんが熊本へ帰ってすぐ、あの震災があった。当初予定していた古民家の店舗は地震で使用不可能となり、震災の影響で新しい物件はなかなか見つからない。いざ物件が決まってからも復興の中で改装作業は進まない日々が続いた。

「開店が遅れて一番困ったのは、その間の収入がないことでした」

 そこでワインを飲食店に卸す傍ら、仕方なく今年が初リリースとなるオリジナルワインを半年ほど早く販売することになった。そのワインはまだ還元している状態だったため、売り先の飲食店には少なくとも半年か1年は寝かせてほしい、と説明する不本意な販売となった。

 このオリジナルワインを一緒に造ったのが地元唯一のワイナリー、熊本ワインだ。実は熊本ワインでは古賀さんが求めるナチュラルな仕込みを行っていなかったのだが、
「ないのなら造ってもらえばいいと思っていました」と大胆な発想に切り替えた。古賀さんは地元に一軒しかないワイナリーを大切にしたかったという。そのための努力は惜しまず、何年も前から熊本ワインの醸造家・幸山賢一さんと共にナチュラルなワインを飲む機会を持ってきた。

「その結果、国内で屈指の高い醸造技術を持つ幸山さんに、なるべく何もしない自然な醸造スタイルでどこまできるか試してみたいという気持ちになってもらえたのです」

 そうはいっても会社としてはリスクが高い。話し合った結果、古賀さんがそのワインを全量買い取ることで話は決まった。

「僕はオリジナルでワインが造れるし、醸造家は新しい造りを試せる、農家は自分の葡萄だけのワインを手にする喜びがある。みんなにとっていいなら、やらない手はないと思いました」とにっこり。そしてこう続けた。

「これから熊本がもう少し産地として注目されると面白いなと思っています。雨量が多く難しい気候ではありますが、少しずつ模索していけば、いつか熊本という土地に合ったワインができる可能性は相当あるのでは、とも。それまでは地元のワイナリーと二人三脚で盛り上げていきますよ。こういう話をもうずいぶん前からしていますが、それが今ようやく形になってきました。丁寧に一歩ずつ、小さな変化を起こせるように頑張っていきます」

 今年、ヴァンナチュールのお祭り「ナチュランネ熊本」が3年目を迎える熊本。南九州のワインをけん引するこの街に、古賀さんの決断が投じた一石がさざ波となって波紋を広げている。

●SHOP INFO

ワインショップ Quruto

店名:ワインショップ Quruto

住:熊本県熊本市中央区上通町11-3 浅井ビル1F
TEL:096-240-5326
営:13:00~19:00
休:日・祝