ワインの未来はどうなる?第一線で活躍するワインのプロ4人に聞いた

池崎茂樹さん(「wine bar alpes」店主)
「身体感覚に訴えかけるワインとダンスミュージックでお客さんをもてなしたい」

プロフィール…富山県生まれ。上京後、サラリーマンを経て飲食の世界へ。「ウグイス」「オルガン」などの人気店で経験を積み、2015年に渡仏。2016年10月、地元・富山市内に「アルプ」をオープンさせた

「人は、自ら感動したものしか伝えられないと思っています。僕自身が感動し、受け止めてきたものを富山の人たちに伝えられたらうれしい」

「人は、自ら感動したものしか伝えられないと思っています。僕自身が感動し、受け止めてきたものを富山の人たちに伝えられたらうれしい」

地元とワインへの愛情を
新しいスタイルで表現

「オルガンで働かせていただいていた時から、将来店を開くなら富山で、という思いはありました」

「ウグイス」(東京・三軒茶屋)や「オルガン」(東京・西荻窪)など、東京の人気店で経験を積んだ池崎茂樹さんが2016年10月、地元・富山にワインバーを開いた。

 その名は「アルプ」。

 店内にはヴィンテージ感が漂い、なんともいい雰囲気。カーブした木のカウンターの向こうにはターンテーブルとJBLのスピーカーが配置されていて、心地いいダンスクラシックが流れている。そもそも池崎さんが飲食の世界に興味をもったきっかけも、音楽が入り口だったという。

「大学時代、札幌のクラブでデヴィッド・マンキューソ(1960年代末、NYの自宅で行われていたパーティ「LOFT」の主宰者であり、DJ。ダンスミュージック界のレジェンド)のイベントを体験したんです。そのパーティには当たり前のように食べ物があって、しかもフリーフード。音楽もさることながら、食べ物があることでみんながもてなされているようなとてもいい雰囲気になっていて。そのパーティで、食べ物の力って凄いんだな、と痛感したんです」

 上京後、心の道先案内人となったのは編集者の岡本仁さん。岡本さんのブログで知った「アヒルストア」に足を運ぶようになる。

「ブログで気になっていて、実際に行ってみたら衝撃を受けました。ワインもそれまで飲んでいたものと全然違うし、なにより空気感が素晴らしくて。“これだ、富山にはこういう店が必要だ”と(笑)。そうこうするうち、そのブログに『ウグイス』が登場して、行ってみたら、また感銘を受けまして。“ここで働いてみたい”と思ったんです。それがきっかけで、ウグイスで働かせていただくようになりました。その頃から、富山に何を持ち帰られるかを念頭に働いていましたね」

店に立つ池崎さんはワインのサーブから選曲までひとりでこなす。音楽はダンスクラシックからソウル、ファンクまで幅広い

店に立つ池崎さんはワインのサーブから選曲までひとりでこなす。音楽はダンスクラシックからソウル、ファンクまで幅広い

フランスで深まった
ワインと音楽への想い

 2015年1月に「オルガン」での日々に区切りをつけ、同年6月からフランス・オーベルニュにあるパトリック・ブージュのもとで、一年間住み込みで働いた。「オルガン」時代に自身の店を構想し、フランス滞在中にその構想がさらに深まったと池崎さん。

「あるとき、単に味・香りが美味しいだけでなく、喉から全身へと広がり、果ては心の奥底にまで届くようなワインと出会いました。僕は、自分の身体感覚を揺さぶってくれるワインが好きなんです。ダンスミュージックも僕にとってそういう存在。ダンスミュージックを聴きながらワインを楽しむという、色っぽくていきいきとした空間を作りたかった。僕は音楽のプロではないので、それをお店の商品と捉えるつもりはありませんが、音楽は間違いなく自分のパーソナリティの一部を担っているもの。フランスにいる時、収穫前の時期にはサロンのようなイベントが各地でありましたが、そういう場にはいつも音楽、ダンスミュージックがあった。彼らにとってワインと音楽はセットになっているんです」

 アルプを訪れたのは開店して10日後のこと。地元の方にも少しずつ認知され、取材日も多くのお客さんで盛り上がっていた。

「カウンター内にターンテーブルを置いてよかったなと思っています。かつてのマンキューソのパーティで食べ物がそうだったように、ここでは音楽が入り口になりうる。ワインも音楽も、少し受け手を選ぶようなものを揃えているからこそ、すべてのお客様に喜んで帰っていただけるよう、接客は全力で。手ごたえと言いますか、ワインだけではもてなせなかった人たちをもてなせるんじゃないか、そういう可能性を日々感じています」

 池崎さんがワインと音楽というテーマを選んだのは「自分が好き」である以上に、ある種の危機感を感じていたからだという。

「東京には、先輩方が築き上げてこられた基盤と自ら選ぶ目を持った熱心なお客様がすでに存在します。では、僕のような後発世代が地方でやる意義とは何か? 話は変わりますが、いまや世界中でヴァンナチュールがトレンドになっていて、フランスはもちろん、北欧やアメリカ、オーストラリアでも消費が伸びています。日本はそのうちレアワインはおろか、安くて美味しいワインすら入手しづらくなる可能性がある。ではどうすればいいのか。

 それにはこれまでワインに接してこなかった人たちに飲んでもらい、消費量を増やす必要がある。しかも今までとは違う形で。だからこそヴァンナチュールに触れてこなかった地(富山)で、新たなスタイルでお店をやれば、新しいワインファンを少しでも増やせるんじゃないか、と。一見して『ワインと真正面から向き合わない』ような姿勢は、ワインと真摯に向き合っている方々にとって面白くないかもしれない。でも、根本では同じ気持ちでいるつもりです。それが僕なりのワインへの愛情であり、恩返しなんです」

●SHOP INFO

wine bar alpes

店名:wine bar alpes

住:富山県富山市総曲輪4-7-18
TEL:非公開
営:18:00~24:00(23:00LO)
休:日