ワインの未来はどうなる?第一線で活躍するワインのプロ4人に聞いた

江上昌伸さん(「ワインショップ エーテルヴァイン」オーナー)
「愛して止まないワインの本当の魅力を伝えるために、いまの僕にできること」

プロフィール…京都のワインショップ「エーテルヴァイン」オーナー。取り扱うワインは、情熱とともに伝えていきたいストーリーを持つものばかり。江上さん本人の繰り出す熱い言葉とその人柄に、取り憑かれているファン多数

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この先目指すべき
カヴィストの姿とは?

 江上昌伸さんは、考える。昨今の情報過多とも言えるこのスピード感あふれる日本で、立ち止まるようにと言うべきか、何かにしがみつくようにとでも言おうか、言葉にすることも躊躇しながら、考えている。

「なんかね、最近、ワインが寂しそうに感じる時があるんです」

 ようやく絞り出した第一声だ。それは一体どういうことかと訊ねれば、また振り出しに戻るように、もどかしい表情になる。

 江上さんは、京都で「エーテルヴァイン」というワインショップを営んでいる。12年目を迎えた今年、見えてきたことや感じることに、少しずつ変化や違和感が表われてきたようだ。

「僕がこの店を始めた頃や、別の酒屋さんで働いていたさらにもっと昔は、自分が好きなワインやその造り手たちは、京都ではまだあまり知られていなくて。この人たちのワインを世に広めるのが僕の使命だ! と思ってお店を始めたんです。でもいまやうれしいことに、多くの人たちがそれらのワインに注目してくれて、好きだと言ってくれる。情報もネットやSNSで拡散されるので、何も苦労せずにワインが売れたりもする。でもそれって、果たしてワインのためにどうなんだろうか、と。たとえば本当の飲み頃を考えず、ただ早くリリースすることに振り回されていないか。好きになってほしいワインなのに、そのワインの本当の力が表れていない状態で、手離れしていないか。カヴィストとして自分がどうあるべきかを、凄く考えるんです」

 カヴィストとは、ワインの仕入れや管理を専門的に行う人のことで、カーヴ(=酒蔵)の仕事に従事する人を指す。江上さんの目指すそれは、ただ保管状態のいい場所を確保して、売り上げのために在庫率や回転率を上げることではなく、「ワイン自身が持つ本当のよさや力を伝えるため、ベストなタイミングを見極める」人になることだ。言うは易しだが、現実問題、なかなかできることではない。

(左)カーヴには、今か今かと世に出る時期を待っているワインが眠る。(右)話をしながら開栓したワイン。注がれたグラスからは次々と香りが広がり、生命力を感じさせる

(左)カーヴには、今か今かと世に出る時期を待っているワインが眠る。(右)話をしながら開栓したワイン。注がれたグラスからは次々と香りが広がり、生命力を感じさせる

日を重ねるごとに
ワインを謙虚に愛するようになった

「僕も、これまでずっとそうしてこれたかといえば、できていなかったと思うんです。実際、まだまだですし。でもいま、ブームとも言えそうなこのワイン熱の波がきたことで、かえって冷静になれたというか。たとえば、4年ほど前にインポーターさんから買い付けたもので、その時点では販売しなかったものがあるんです。販売できる状態じゃなかったと言うほうが正しいかな。正直“買ってしまった”という気持ちもありました。でも、信じたい造り手のワインだったので、これは待とうと決めたんです。“その時”が来るのを。いま開けてみましょうか」

 こわごわというよりも、圧倒的な期待感を持った顔つきで、ゆっくりと試飲を始める江上さん。

「なんというか、前に感じたマイナス要素がなくなった訳じゃないけれど、それ以外の要素たちが、バランスをとって一つになろうとしている気がします。全員でリトリートして来ているというか。自然の力やエネルギーの凄さを、こういう時、本当に感じますね」

 これを安堵と言わずしてなんと言うかというほどの破顔。語り始めの頃とは、別人のようだ。

「造り手の手元から離れたものを育てていくのも、カヴィストの大切な仕事のひとつ。傲慢と取られるかもしれないですが、それは逆で、僕は日を重ねるごとにワインに対して謙虚にならざるを得ない自分に気が付いている。そしてそれを実証するには、目もくれず愛するしかない。僕はこれから先も、ずっとそうありたいのです」

●SHOP INFO

ethelvine

店名:wine shop ethelvine

住:京都府京都市左京区岡崎最勝寺町2-8
TEL:075-761-6577
営:11:00~20:00
休:月