千葉在住ライターが、東京の友人に自慢したい、“ピーナッツだけじゃない”県内のおいしいものを気ままに紹介。房総を拠点にした「食」にまつわるあらゆるものを見つめた、飲んで・食べて・知る千葉の風土&food記です。
房総の旬と出会う、「merle」の季節のおまかせコース
(千葉県大網白里市)
「ふらりと寄れる気軽さ」「目利きのワイン」「旬の料理」が同居している、気の利いた店──。都内ではよく見かけるそうしたコンセプトの店も、東京から電車で1時間以上離れた県内の住宅地にはまだまだ少ないのが現実。しかし、2016年8月にオープンした外房・大網の洋食&フレンチレストラン「merle」は、それらの願いをきっちり満たしてくれる、期待の新星です。
こちらの真骨頂が、旬の食材を活かした季節のおまかせコース。ランチタイムでも注文可能な上、前菜2品・メイン1品・デザート・コーヒー付きで3,600円と破格です。取材時(10月中旬)は、まさに秋たけなわといったメニュー構成でした。
まずは冷製の前菜からスタート。「茄子と燻製をかけた秋刀魚のテリーヌ仕立て」は、刺身でもおいしい鮮度抜群の秋刀魚にゆっくり火を通すことで、質感はそのままに香りを纏わせる「瞬間燻製」を施した逸品。秋刀魚の脂と、とろっと熟した茄子の甘みが好相性で、導入にふさわしい一皿です。
続いては、温製の前菜「カボチャの焼きニョッキ、グラナ・パダーノのチーズクリームソース」。しっかり焼き色がついたカボチャのニョッキは、みたらし団子を思わせる味わいと弾力。もちもちした甘さと、ほんのり塩気の効いたチーズクリームソースとの“甘辛ループ”がたまりません。
お待ちかねのメインディッシュは、「鴨のロースト、カシスのソース・栗のピュレ」。フォワグラをとった後の胸肉(マグレ・ド・カナール)は脂が綺麗な味わいで、酸味のあるカシスのソースと、繊細なケーキのような栗のピュレが絡み、これだけで赤ワインが何杯でもいけてしまいます。
その後の、カンパリオレンジのアングレーズソースと金木犀のブランデーを使った締めのデザート「マンゴーのパルフェグラッセ、金木犀の香り」に至るまで、シェフの硬軟自在なソース使いを堪能できます。
これら粒揃いの料理を繰り出すのが、オーナーの山中学シェフ、33歳。そして、絶妙なお酒のセレクトとサービスでアシストするのが、奥様の亜美(つぐみ)さんです。ともにソムリエ資格を持ち、都内をはじめ様々な実力派店で経験を積んだ二人ですが、店の雰囲気はあくまでもカジュアルで朗らか。ランチには気軽に注文できる洋食メニュー(ハンバーグ、ポークカレー、オムライスなど)もあり、肩肘張らないスタイルが魅力です。
「フレンチレストランというより、町の食堂を目標にしています。かしこまって食べる店ではなく、誰でも気軽に入れて、おいしいものを楽しんでもらえる場でありたいなって」。
看板に掲げた「洋食とフレンチ」の文字が、その思いを代弁しています。